koss

兄とその妹のkossのレビュー・感想・評価

兄とその妹(1939年製作の映画)
4.2
小市民映画は問題が起こりそれが解決されると元通りになり大団円。というがの通例だが、島津保次郎は小市民映画を越えようとする。会社人間の嫌らしさ下劣さを描き、佐分利信は下劣な同僚を殴り、辞表を叩きつける爽快さで、ラストには友人の事業を手伝い大陸に雄飛する希望と解放を見せる。

佐分利の行動は二年後に公開される小津安二郎「戸田家の兄妹」の、父親の死後に残された母親に冷たい兄妹たちと決別して母親と三女と天津に旅立つのを先取りしている。タイトルも兄と妹に兄妹だ。それだけでなく理想的な妻の三宅邦子、丸の内勤め、鎌倉、佐分利の帰宅と着替えを手伝う三宅のやり取り、囲碁、婚期の女性など、典型的な小津スタイルの骨組は島津から継承しているように思える。(三宅は「戸田家の兄妹」では冷たい義姉)。

随所に島津のセンスが光るのもこの作品の特徴である。オープニングの怒ったように道を歩く佐分利は見事にクライマックスにつながる。桑野通子の決断の設定も絶妙だ。華麗な衣装(とりわけコート)の英文タイピストのモダンガールが兄の立場を思い縁談を断る。自分の想いより兄を優先するモダンではなく日本的心配りをする。また、箱根のピクニックで桑野が見せる手の平の上の富士山はまるでTikTokではないか。

昭和十年代の箱根仙石原、登山鉄道と宮之下駅も貴重。大陸への飛行機が軍空港の「桂」マークで、満州移民奨励につながる。島津はその後、満映で李香蘭主演の「私の鶯」を監督する。
koss

koss