YasujiOshiba

CURE キュアのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

CURE キュア(1997年製作の映画)
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U次。23-37。YouTube でこの映画をめぐる黒沢清と濱口竜介の対談を発見見始めたのだけど記憶からほとんど落ちていた。都合よく配信にタイトルがあり、まずは映画を見直してからとクリック。いやすごいわ。こんなにすごかったっけ。

劇場で見た記憶がないので、初見はたぶんビデオだったのだろう。ところどころ覚えている。けれども映画はやはり劇場で見た方がよい。さもなければ大画面の高音質じゃなきゃ。

幸い、今回の配信はそこそこの画質。音も悪くない。あの洗濯機を空回りさせるときの重低音や、食器のトレーを運ぶときのノイズなど、ありあわせの環境音がドローン・ミュージックのように敷き詰められ、神経を逆撫でにしてくる。

高画質で映像もロングショットの効果がよくわかる。自然光の揺らぎ。木々の揺らぎ。あらゆるところにある小物の点滅。なるほど、点滅と揺らぎが重要なのだ。なにしろテーマはメスメリズムなのだから。

メスメリズムとは「動物磁気説」といわれもの。18世紀にドイツ人医師のフランツ・アントン・メスメルが主張(映画では「メスマー」)、人間や動物、さらに植物も含めたすべての生物が目に見えない自然の力「生体磁気」(Lebensmagnetismus)を持ち、医療技術としてその力を利用しようというもの。

この「生体磁気」による治療がのちに催眠療法に発展してゆくのだけれど、メスメル(メスマー)のいかがわしさを背景に、暗示による殺人というテーマの映画を目指したというわけだ。

黒沢&濱口インタビューを聞いていると、Vシネマを何本も撮りながら、実験的なホラーを撮ろうとしたという。どうやれば新しい怖さを映画にできるか。たとえば冒頭の娼婦の殺人シーンの唐突さ。そして取り調べ中にでんでん演じる警官が催眠暗示を発動させるシーンの長回し。

実験だから結果を考えずに脚本を書き、撮影では現場の状況に応じた決疑論(casistica)の方法で対応する。そんなお膳立てのうえで、役所広司と萩原聖人の演技が火花をちらす。だいたい、精神病院の独房のふたりのやりとりは5分を超える長回し。黒沢清には深い意図はなかったというけれど、そんなとんでもない長回しのなかに、なにかが映り込んでしまうわけだ。

いやはや、これが映画なんだよね。話の筋は筋としてちゃんとあるのだけれど、怖いのはお話しではなくて、目の前に展開される建築学的な運動なんだよね。ここから黒沢清のホラーが立ち上がると考えても良いのだろうね。

そのうちまたきっと見直そう。濱口さんじゃないけど、何度も見直せる映画だからね。ぼくらは楽しむだけだけど、映画を撮る人なら、なおさら見直して、細部を確認したくなる、そんな映画なんだよね。

黒沢清&濱口竜介の対談はここ:
https://www.youtube.com/watch?v=9jHqlKi_WyI
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