まぬままおま

CURE キュアのまぬままおまのレビュー・感想・評価

CURE キュア(1997年製作の映画)
5.0
黒沢清監督。

ヤバすぎる。。。ずっと見よう見ようと思っていたが、特にきっかけもなく後回しにしてた。けれど『チャイム』を契機に決断できた。早くみるべきでしたが、今みれてよかった。


以下、ネタバレ含みます。

最初の15分が神がかっているんです。
喉元を×の字に切り裂く猟奇的殺人事件が起きる。こんなヤバい事件の犯人は誰で、どんな動機が語られるかに期待が生まれる。しかし身元は遺留品から分かり、犯人も怯えて隠れているだけ。どういうことなんかい!!!蛇腹みたいな照明映したかっただけなんじゃないとか、もうみつかっていいのかいと笑ってしまった。しかしファーストシーンの精神疾患がありそうな女性が誰なのか分かっていないし、犯人は捕まっても猟奇殺人が続いていることが明らかになる。そこから本作の狂気は私の想像の範囲外にあることに気づいてしまう。

それも殺人教唆の疑いをかけられる間宮の狂気性が尋常ではない。記憶障害があるらしいが、それでは説明がつかないコミュニケーションの不能さ。ここはどこなの?あなたは誰なの?答えてもまた何度も問い返される異常さ。みているこっちも不快でおかしくなりそうだ。

しかし間宮は他人の「本当の自分」を暴いてしまうのだ。何度もあなたは誰かと問うことで内に眠る狂気を覚醒させてしまう。それはオカルティズムに傾倒するが、真っ当な他者とのコミュニケーションだ。警察官の高部も医者も間宮と同じく「聴き取り」をして、他人や事件や症状の「本当」をみつけようとしていることで一致している。しかし本作の「本当の自分」は、のっぺらぼうのような虚無である。だから世界や他者と関係する必要があるのだが、その関係の帰結が殺害であり、狂気なのだから恐ろしい。

果てでは夢と現実の境界が溶ける。抑圧された〈私〉と「本当の自分」の境界が分からなくなるように。高部はフラッシュバックで最悪の事態を予見し、妻の自死を現実だと錯覚してしまう。このような夢と現実の未分化状態が、ラストの間宮の殺害や高部の生活に浮遊感をもたらし、現実を狂気に満ちた異世界へと化すのだ。

「本当の自分」を探したり表すのは困難だ。あるように思いつつ、それは虚無でしかない。虚無に絶望して狂気に満たされないために。何を治す?除く?

蛇足
一番ヤバいのはウェイトレスだと思うんです。高部がほとんど食べ残すのも大丈夫か?と思いつつ、お皿を下げるとき積んだりはしないでしょ。。。それも演出であり、ラストに繋がるのだから素晴らしいのだけど。

あと高部の妻が洗濯機を空で回すのがきつい。日常に狂気をもたらされたらおかしくなりますよ。

ユングとかも読まないとな…当たり前に巨匠は読んでいる。