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遥かなる国の歌のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

遥かなる国の歌(1962年製作の映画)
4.5
【カリスマは空間を支配する】
Amazon Prime Videoでは日本映画が多数配信されている。今回は小林旭主演の音楽映画『遥かなる国の歌』を観てみた。

フィリピン人とのハーフの男に、薬の誘いを受けるも粋な言葉で回避し、ジャズマンとして成功を目指す男・山川はバーに入る。水しか頼まない無礼な彼。その場にはバンドグループがいてフロアを沸かせているが、とある客からの注文に焦り煽られている。ここは俺の出番だと、客を巻き込み自分のトランペット捌きを見せつける。壁に掛かっているモナ・リザに音色を聴かせるように、魂の旋律を響かせる。横移動しながら、惹き込まれる客を捉える。演奏が終わる。間がある。依頼人のおっさんは、この演奏は失敗したんじゃないかと、払った金を回収しようと手をトランクへ伸ばす。トランクを閉じて立ち去る山川。拍手喝采が響き渡り、演奏は大成功に終わる。演奏だけでなくショット捌きで小林旭のカッコよさを見せつける演出に痺れる。これはその後もひたすら続いていく。

例えば、仲間が集まりバンドが結成されていく場面。屋上で演奏していると、別の音色が響く。屋上から下を覗くと仲間がひょっこり顔を出す。屋上に人が集まっていく。廃墟のような空間に自由で熱い旋律が響き渡る。まだ無名であるが、希望に満ち溢れている。青春の眩い空気感に魂揺さぶられる。バンド活動は大変だ。ヤクザがステージを荒らしにくる場面がある。トランペットを奪おうとするが、サッと手を引き殴る。ステージ前で乱闘が勃発するが、ステージを壊さないよう間合いを取り、アクロバティックな攻撃で敵を制圧していくのである。

後半はチーム内での音楽性の違いや、揉め事を解決していくパートとなりジャンルも変わるのだが、ひとつひとつのショットが視覚的面白さに満ちており、ドラマとしての無駄がない。こういう短く豊かで面白い映画ってなかなかないよなと思った。
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