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モスキート・コーストのペジオのレビュー・感想・評価

モスキート・コースト(1986年製作の映画)
4.3
親父には取り付く土地もない

滑車とワイヤーを使った手作りの用具で未開の地を開拓していく前半は、ジャンプの『Dr.stone』的なワクワクする面白さがあるが、アチラでは描かれなかった(描かれてもギャグ的に処理されていた。)「本当に上手くいくのか?」という「不安」までコチラは描いている
映画の一つ目の転換点であるジャングルにそびえ立つ冷却装置は、その「直線」が醸し出す異物感もあってまるで「モノリス」、あるいは「バベルの塔」の様な存在感で、この辺からこの映画が言いたいことが何となくわかってくる

家族からみても、社会から見ても、「取り付く島もない」親父の話
現代社会や宗教に対して案外核をついた意見を持っているのに、それを信じて疑わないが故に必要以上に「敵視」してしまうせいで、話の通じない人になってしまっている
開墾した土地を牧師が訪れるシーンで、腰にぶら下げる金槌をまるで西部劇の拳銃の様に撮っているのは、彼にとってはこれが「決闘」である事の証(そして現地人からすればそれは「娯楽」である。)
「敵」か「味方」の極端な二元論しかない人は、自分が「味方」と認識されている内は心強い…内はね…

後半は土地を捨てるしかなくなった家族の顛末を描きつつ、「アメリカ」の抱える業を炙り出していく
アメリカに失望して、アメリカを捨てた者が、結局アメリカを余所の土地に求め、やがてアメリカが迎えるであろう結末を体現するというのは…まあ皮肉だな

家族を巻き込む毒親をチャーミングに演じたハリソン・フォードも良いのだが、そんな父への愛憎を眼差し一つで表現するリヴァー・フェニックスと、必死で夫への信頼を保とうとするヘレン・ミレンも良い(手鏡で自分の顔を見た時の表情とか、細かい部分が雄弁なのよ。)

個人的に「馬鹿げた野望が失敗するまでの道のり」は、今最も観たい題材の一つなのでかなりハマった
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