ちょっとした偽装誘拐、依頼者も犯人役も容易にwin-winのはずだったのに徐々にズレていく計画、ドツボにハマる。
可笑しみを感じられる黒い冗談を存分に堪能。コンパクトに収められた尺も嬉しい。
注)以下、作品の内容に触れます。
冒頭の導入文、弩級のスペシャルジョーク。
THIS IS A TRUE STORY.
(これは実話である)
…いや実話ちゃうんかいっ!!
Out of respect for the dead,
(死者への敬意をこめて…)
…敬意はどこに置いてきたんやっ!!
今作のテーマは、『意思疎通の大切さ』と『ささやかな幸せ』だったように思います。
犯人の2人は互いに会話が成り立たず、一方がボールを当てるだけ。依頼人と犯人も、電話しても電話してもなかなか連絡がつかない。依頼人は自分のことで手いっぱい、息子のことはおざなり。
一方、警察署長夫妻は、妻が朝早くの呼び出しを受ければ夫も起き朝食を共にする。
夫はわざわざ昼食を署に届けて妻と一緒に食事を楽しむ。
日々、間もなく産まれくる我が子を共に慈しむ。
なんとまあ、人との関わり方が対照的なこと!
事件の解決後、警察署長が犯人に問いかける。
「わずかなお金のため…人生はもっと価値があるのよ。そう思わない?」
沈黙する犯人。
持てる者と持たざる者は分かり合えないのか。
欲をかいて全てを失うのか、今ある幸せを大切に守り育てるのか。
「こんないい日なのに」
沈黙。
いい日に出来るかは、自分自身のちょっとした考え方次第なのかもしれないなと感じた作品でした。