ルサチマ

俺は田舎のプレスリーのルサチマのレビュー・感想・評価

俺は田舎のプレスリー(1978年製作の映画)
4.2
蓮實重彦がこの映画について文章を書いているとのことで見たが、なるほど確かに映画史的には全く重要なものではないが、牧歌的な田舎の描写と西部劇的なギタリスト(原作に当たる主題歌を歌っている吉幾三が演じる)の存在、そしてフランス帰りの性転換した兄(カルーセル麻紀)という個性的なキャラクターが彩るこの映画の良さは確かにあって、特に中盤でカルーセル麻紀が帰ってからの描写はかなり見応えある。
蓮實重彦の批評についてはもちろん多大な影響は受けつつ、現代映画の文脈では限界も多く感じているのだが、それでも蓮實重彦が他の映画研究者とは異なる稀有な目線を持ってると感じるのはこのような、見逃されて然るべき「普通の」映画を発見し、たった一人その細部に魅了されるがまま批評を書いてきた姿勢にあると思っているし、そのことに畏敬する。現代のSNS文化の中では、映画史なり、国内外の過去から現代の映画批評の文脈をかなり早い段階で身につける早熟な人間も多くいるようだが、そのようなツールのない時代に蓮實重彦がほとんど孤独に映画を見て語ってきた(シネフィルというよりも文学青年的という方が正しい気がする)身振りにこそ信じられるものがあるなと。
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