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パサジェルカのodyssのレビュー・感想・評価

パサジェルカ(1963年製作の映画)
3.0
【未完のナチ女看守映画】

「パサジェルカ」は船客という意味。
監督の交通事故死により未完に終わった作品です。モノクロ。DVDにて。

第二次大戦後後しばらくして客船で大西洋を渡るドイツ人夫妻。妻は、英国の港で下船する女客の中にかつて知っていた人物を認めます(他人のそら似かも知れないが)。

実は妻は戦時中はアウシュヴィッツ強制収容所でSS(ナチ親衛隊)の女看守をしており、その時の囚人に再会したと思ったのでした。

この女看守リサと女囚のマルタが当時どういう関係にあったのかがこの映画の肝心の部分です。
未完なので必ずしも全体像がはっきりしているわけではありませんが、よくある、看守が囚人を徹底的にいたぶるというような話ではありません。

女看守リサは当時若かった女囚マルタに惹かれる部分があり、自分の助手に指名します。助手になると待遇もマシになる。またマルタには同じくポーランド人の政治犯である男囚の恋人もいて、リサはマルタが恋人とこっそり逢うのに便宜をはかってやったりする。

リサはそれでマルタの信頼感を得たいと思っている。つまり、看守と囚人という関係を超えた絆をリサは求めているわけです。でもマルタは必ずしもそういう信頼感みたいなものを示してはくれない。

未完に終わったので断言はしかねますが、この映画は女看守と女囚のそのような微妙な心理的な関係を描いて、結局のところ抑圧する側であるドイツ人には抑圧されたポーランド人と心のつながりを得ることは不可能なのだと言っているのかも知れません。

ただ、そういう政治的な読み方で事足りるかは疑問で、看守でありながらどこか後ろめたい表情を多く見せている女看守のヒロインには、単に「ナチ=悪」という図式からはずれる何かがあるような気がする。未完でそれが十全に表現されないままに終わったことが惜しまれます。
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