パイルD3

パサジェルカのパイルD3のレビュー・感想・評価

パサジェルカ(1963年製作の映画)
4.5
『昨年、2023年初見の歴史を感じる古〜い過去作ベストムービーの回です。
サブスク配信、ソフトで観た作品がほとんどですが、この場合順位は全く意味が無いので、順不同で並べています。(※末尾にリストアップ)
ただですね、驚愕の逸品に出会って衝撃を受けることもあれば、名作の誉れ高き作品でも、時代の隔たりによって、実際にはピンとこないこともあります。
過去作にはそんな不都合もついて回ります。

ここで挙げている作品は特に基準はありませんが、唯一基準らしきものがあるとすれば、ガッチリ記憶に残った、もう後遺症がスゴい作品ばかりです。』


【パサジェルカ】
そんな中でも、重要な一本になったのが1963年のポーランド映画「パサジェルカ」
(=ポーランド語で女性客の意)。
未完成作品とはされているが、不完全とは思えない強いインパクトを残す。

撮影中に事故で急逝したアンジェイ・ムンク監督の遺志を継いだ友人たちが、撮影済のフィルムや、スチールを駆使して一本に仕上げたとされる作品。

何がすごいって、こんなにもスチールを巧みに使うことで、人の感情と揺動する情緒を吹き込んで、ドラマそのものを動かした映画を他に知らない。しかも1時間程の作品とは思えない密度を感じさせる。

ナチスの強制収容所の親衛隊員の女性ライザと、収容されていた捕虜女性マルタが大戦終結の10数年後に、一般人として偶然クルージング船上ですれ違い、暗い記憶が一気によみがえるというスリリングなストーリー。

ドラマは、ナチス党員で精神的同性愛者でもあったライザの視点で描かれていて、境遇に翻弄される哀しげな眼差しを持つ捕虜のマルタと、彼女にいつしか目をかけるようになる厳格な刑務官のライザが、上下の束縛から思うように距離感を縮められないという関係の見せ方が絶妙だ。

亡き監督とその友人たちが描こうとしたのは、ホロコーストによる迫害の縮図として戦時下のアウシュヴィッツ捕虜収容所を舞台に、人間の歪んだ尊厳と情けが揺れる姿、そして消したい記憶という残酷な末路ではないかと思う。
それはとても切ない息苦しさを残す。

◾️原作は、アウシュヴィッツとラーフェンスブリュックの二大強制収容所の投獄から生き延びた女流作家のソフィア・ポスミシュの同名小説。ナチスSSの刑務官の人間的な一面を書いた作品と言われている。

・オマケ
【2023旧作ベストムービー】※初見・順不同

「パサジェルカ」(63)
 監督:アンジェイ・ムンク
「尼僧ヨアンナ」(61)
 監督:イェジー・カワレロヴィッチ
「トゥームストーン」(93)
 監督:ジョージ・パン・コスマトス
「アルチバルド・デラクレスの犯罪的人生」(55) 
 監督:ルイス・ブニュエル
「Z」(69)
 監督:コスタ・ガブラス


邦画では
「上意討ち 拝領妻始末」(67)
 監督:小林正樹
「鬼婆」(64)
 監督:新藤兼人
「人情紙風船」(12)
 監督:山中貞雄
「一人息子」(36)
 監督:小津安二郎

を挙げておきます。
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