ていざむらい

里見八犬伝のていざむらいのレビュー・感想・評価

里見八犬伝(1983年製作の映画)
2.9
南総里見八犬伝が大好きで大好きで、色々な方が書いた小説や漫画をコレクションしてます。なのでこの映画の脚本の人が書いたノベライズは数年前先に入手し読んでいたんですが、なかなか映画の方を見る機会がなく、最近になってようやく鑑賞出来ました。先に小説を読んだ身からすると、映画版はだいぶマイルドで取っ付きやすくなってますね。小説はエログロが全面に出てる上どいつもこいつも悲惨な結末を辿るので読むのがちょっと辛かったんですが、映画の方は時代のスターが主演なだけあって小説の大まかなあらすじをなぞったくらいでしたね。それで正解だったと思います。

以下ずっと見たかった作品を見れたためはしゃぎまくり引くほど長いキャラ・ストーリー評↓





親兵衛…
親兵衛といえばショタというのが原作の馬琴八犬伝でもその他翻案八犬伝でもお決まりですが、この映画並びに小説は親兵衛が主人公という点にまず惹かれたのを覚えています。蓋を開けてみれば悪ガキ通り越してほとんど悪党。犬士たちにはハブられ、静姫に言い寄って拒絶され(小説)、玉梓の息子というはちゃめちゃオリジナリティ高い設定も盛られてます。小説読んだ時はびっくりしました。映画では静姫の方からも好意を持たれているので、小説ほど悲惨ではないですね。

静姫…
親兵衛が主人公、というのと並んでびっくりした、まさかのヒロイン静姫。馬琴八犬伝では終盤の八犬士嫁取りエピソードでしか出てこない彼女(元は静峯姫)が、主人公親兵衛に合わせてまさかの大出世したという事実はあらすじを読んだ私の度肝を抜きました。しかも初っ端からお家が壊滅してる…。不幸な生い立ちなのは八犬伝のヒロインみ強いなと思いましたが、ティーンらしく勝気でわがままなのは時代ですね。小説では親兵衛に対して塩対応、途中態度が軟化したかと思いきや結局は身分が違うんだよ身分が…みたいな終わり方だったので、わりとすぐに親兵衛に心を開く&彼と一緒に生きるという映画の改変は嫌いではないです。小説の方がしっくりは来るんですけどね。

信乃&浜路…
この幼なじみを推してる私からすれば、二人のエピソードはこの映画及び小説の中で一二を争い悲しくなってしまう部分です。信乃と浜路が明らかに恋人同士として描写されてるのは嬉しいですし、浜路が死んでしまうのもまあ原作通りだしそれはいいんですが…。問題は映画では一度死んだ後雑に復活させられ雑に処理される(けどしっかり信乃に殺させる)、小説では一度死んだ浜路を復活させ、敵のじじいが散々弄んだ挙句最終決戦で信乃とあてがい、信乃は変わってしまった浜路をそれでも愛した女だからと泣く泣く切り自分も死ぬという、雑どころか逆に丁寧すぎて鬼みたいな展開になってるんですよね…。本当に映画小説ともども信乃浜路好き泣かせだと思います。それでもこれも二人の関係の形だと思えばなんとか立ち直れなくもないですが…この作品の二人に心が耐えかねたら山手樹一郎版の八犬伝を読みましょう。

道節…
若者が多めのキャストの中で、大角と並び何故かめっちゃオッサン。小説ではどうだったかな…信乃浜路のエピソードが悲しすぎてあんまり覚えてないです。浜路の兄という設定は映画でも小説でも削られてたような。小説では毛野といい感じだった思い出がありますが、映画の役者さんでそれやったら若干違和感があるので削ったのは正解かも。原作ではわりかし自分勝手で引っ掻き回し役ですが、映画小説ではむしろ年長者として静姫を導く役回りでしたね。

荘介&小文吾…
親兵衛が主人公になるとともに欠けたショタ枠を、なぜか埋めさせられた荘介ととにかく影が薄い小文吾。この二人に至っては小説で何してたか本当に覚えてない。映画では二人まとめて雑に処理されてて草生えました。荘介は信乃浜路との幼なじみ関係が美味しい設定だし、小文吾は原作では道中の面白いエピソード担当みたいな犬士なのに、この扱いはもったいないなあと思います。

大角…
小説ではあったような気がする雛衣のエピソードは全くカットされてましたね。けど小説では浜路と同じくらい悲惨な扱いを受けていた気がするので、出てこなくてむしろ良かったような…けど当番エピソードが削られた分、道節と役割が被っちゃってキャラ立ちは中途半端でしたね。なぜかキャストがおじさん。

毛野すわん!!
小説では両性具有という納得できそうでできないトンデモ設定でしたが、映画では最後までぼかされてましたね。むしろ男性という描写は1ミリもなく、ほとんど女性として振る舞ってました。女優さんがまた美しい。翻案された八犬伝では、毛野は周囲を翻弄するおきゃんなキャラクターとして描かれていることが多い気がしますが(多分女装して小文吾をからかった原作エピソードのせい)、この小説の毛野は終始どシリアス、映画でも一度たりとも笑わないという徹底ぶりでした。それはそれでミステリアスな毛野像に合ってるような気がして悪くなかったです。宿敵との因縁が最終決戦でサラっと映像化されてるのは目からウロコでしたが……それでも他キャラに比べると長めの尺でしたし、主人公の親兵衛と静姫を別にすると、優遇されてる方ですね。制作スタッフは毛野好きなんだろうなと思いました。私ももちろん大好きです毛野さん。どう料理しても美味しいキャラを真面目な性格で終わらせた映画は少し残念な気もしますが……まあ、主役を食ってもいけませんし、これくらいが精一杯だったのでしょう。毛野さん大好き!!!

現八…
小説の彼が敵だったことは薄ら覚えているんですが、映像化すると操られているとはいえやってることが下衆すぎて笑いました。そしてしれっと犬士に合流する現八…敵の親玉の息子である親兵衛よりもよっぽど悪どくないか?と思いました。原作の馬琴八犬伝ではことあるごとに男泣きしている彼ですが(いや現八に限ったことではありませんけど)、この小説及び映画ではそんなことしそうにありませんね。

以上八犬士+‪αのキャラ評終わりです。元々「原作の馬琴八犬伝からかけ離れすぎている」とか「エログロすぎる」とか、八犬伝ファンからはわりと辛辣な評価を受けている印象の鎌田敏夫先生の小説「新里見八犬伝」ですが、私は物書きの数だけ南総里見八犬伝があると思っているので鎌田先生が書いたこの八犬伝の物語もひとつの切り口として十分受け止められます。読んでいて精神的に辛いシーンもたくさんありますが、それも含め鎌田版は斬新な発想を尽く取り上げた八犬伝の新境地であったのではないかなと思います。それを映像化した映画もまた然りです。映画も鎌田版を基にしつつ、極力マイルドな描写にしていることで、新たな八犬伝ワールドのひとつとして昇華されているのではないかなと。出来が良いかと聞かれれば首を縦には振れませんが、ひとつの南総里見八犬伝の解釈作品として、私はとても気に入っています。リメイクされたりしないかな〜と密かに思ってます。鎌田版八犬伝、山手版八犬伝、碧也版八犬伝のどれかは現代でドラマなり映画なりやってほしいですねー。鎌田版は映画、山手版はスペシャルドラマ、碧也版は大河にそれぞれ向いてるんじゃないかなあとか色々妄想が広がります。今日俺みたいなコメディドラマ枠なら、よしむらなつき先生の「里見☆八犬伝(リブート前)」も合うんじゃとか。原作が枯渇している今こそ、南総里見八犬伝は注目されてもいいと思います。いや注目されるべき!いつか来るその日をずっと待ってます。

以上、最後はほとんど関係なくなってましたが新里見八犬伝のレビューでした。