悪魔の毒々クチビル

妖怪奇談の悪魔の毒々クチビルのレビュー・感想・評価

妖怪奇談(2006年製作の映画)
3.5
「生きなきゃ駄目でしょ!!」

ある日突然妖怪へと変異してしまう3人の女性を描いたお話。


ふとオムニバス系の作品が観たいなと思って。
それぞれ「ろくろ首」「かまいたち」「のっぺらぼう」と化していく様を描いた3話構成の作品です。
ただ何故かオープニングとエンディングでガキ使のおばちゃんでお馴染みの浅見千代子によるコミカルな妖怪寸劇がありました。
まぁやってることはエグいけどね。子どもを丸呑みした訳だし。
そんな微妙なオープニングのせいで「ポンコツホラーコメディか、これ?」と期待値は一気に下がったんだけど、意外にもそういう作風でもない上に中々良かったです。

「ろくろ首」は、上手く笑顔が作れないのが悩みのモデルの美智子が急に夜な夜な首が伸びてしまうようになるお話で、正直全編通して皆演技はそこそこorイマイチなんだけどこの人が一番良かったかな。
幸の薄そうな表情だったり、何処と無く漂う厭世的な存在感が印象的でした。
唯一出来た友達かと思えた人にも嘲笑されて、まぁ虚しい。
残念なのは首を伸ばした時のCGがどちゃくそショボいこと。
他の2人は特殊メイクを施している分、尚こちらだけ視覚的な違和感が強調されてしまっていて…
あと脊椎のレントゲンで異常が分かって入院する事になって、医学的にろくろ首をどう治療しようとするのか中々興味深かったんだけど医者がポンコツ過ぎてそれどころじゃ無かったのも肩透かしでした。
余談ですが、首伸びた状態で寝るといびきが滅茶苦茶うるさいようです。

「かまいたち」はネイル大好きJKみひろが、突然両手の爪が異常に伸びていってしまうお話。
順位付けるならこれが一番評価低いかな。
ただ3人ともそうなんだけど、自分の変化に対して最初はそこまで動じないんですよね。
美智子は初めて自分で首を伸ばしてみても恐怖で泣き叫ぶ訳でもなく「あー、マジか」くらいの反応でしたし、みひろも明らかに異常に伸びた爪にメイクしてバイト仲間にも「これフィンランドとかで流行ってるネイルだから」という謎の嘘で乗り切っていました。
でも確かにここまで突拍子もない状態になったら意外とリアクション自体は薄いのかもしれませんね。

「のっぺらぼう」はクズJKのマナの顔面が徐々に平坦になっていくお話。
マナのバカでチャラい友人役で若い頃の綾野剛が出ています。
今作に於いて一番のクズな人物で、親友をあんな目にあわせて仲直り出来ると素で思っている辺りちょっとサイコな一面も。

因みにこの3話はそれぞれ繋がっていて、特に「ろくろ首」と「のっぺらぼう」は一時期まんま同じ場所で物語が進行していたので、何故マナが美智子にあんな仕打ちをしたのかの答え合わせにもなっています。
で、この3人が互いに影響し合う最後が結構切ないんですよね。
詳しい事は伏せますが、顔の全てを失い初めて自分の過ちを悔いるマナの元にやって来たあの場面とか、どう足掻いても絶望なんだけど繋いだ命を無駄にしない為のあの行動に何とも言えないエモさを感じました。

エンディングで流れた曲も雰囲気を壊さない良い曲でしたが、こうなるとガキ使おばちゃんのくだりはマジで何だったんだろうと思いますね。
他作品で使う用に撮ったけどそっちがお蔵になったからここで使おう!みたいなノリでぶっ込んだんじゃないかってくらい違和感バリバリでした。

ただただ悲しい作品でした。
怖さこそありませんが、悲壮感が思いの外刺さる内容だったのでもうちょい脚本とか演者なんかを変えれば思わぬ良作になったのでは。
あとマナ役の女優さんがイコ・ウワイスと誕生日が同じで地味に羨ましかったです。