戦い

アラビアのロレンス/完全版の戦いのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

ベドウィンはそんなに水にギスギスしてないと聞いていて、アラブ人への偏見は多大にあるんだとは思う。皆英語喋ってるしな。しかし、異質で魅力的なアラビアの描き方とロレンスを通して描かれる大英帝国の複雑な内省によるこの映画の完成度の高さが、イギリスの暴力性と文化水準の高さを証明してしまっている。
毀誉褒貶の飛び交う葬儀で、ロレンスとは何者だったのかとの問いが立てられるのだけど、どこか虚ろで流されやすいロレンス個人を「アラビアのロレンス」という英雄像が突き動かしていたといえる。最初の飄々と人をからかう変人を鑑みると変貌ぶりに驚く。オトゥールの顔がすごい。アカバ攻略までは第一印象最悪のキャラが頼れる仲間になっていく漫画のような展開で、キャラクターが皆いい。本国から派遣された戦士が突飛な作戦で勝利を収めるのスターウォーズじゃん。タスケンってベドウィンそのままだしな。
砂漠の異動が水場から水場を巡る航海に似ているといったデティールが知れたのは嬉しいな。それでいてアカバの海を見たときの解放感といったらない。ラクダが頼もしくてかわいかった。居眠りはダメなんだな。
ガシムの救出から、ロレンスはアラブ人達に向かい入れられ、アリはイギリス流の人道主義を学ぶ。アラブの衣装を着るシーンは嬉しい。トーブと軍服はロレンスの世評のメタファーであり、砂漠では美しかった衣装もカイロのイギリス軍基地では薄汚く見えてしまう。作品を通して景色は壮大で、特にネフド砂漠の描写は図形的なほどに研ぎ澄まされ、人を寄せ付けない苛烈な美しさを湛えている。ロレンスが「清潔」と評したのも頷ける。和辻哲郎の風土ってこんな感じだったはず。
ガシムの死とアウダ・アブ・タイの登場は、そんなアラブの特性と啓蒙の挫折、暴力的快楽の誘惑を表している。アウダ・アブ・タイのキャラクターが秀逸なのは、殺し奪う残虐性が無邪気さや微笑ましさをもともなっている点で、時計のシーンなどみると可愛いとさえ思う。それでいてトルコ軍虐殺のシーンはくる。風土に由来する合理性を感じさせながら、受け容れることが出来ない。
「近代国家」の建設を試みるアリと伝統と快楽に身をゆだねるアウダ・アブ・タイの二人は新たな民族概念「アラブ人」の葛藤を表し、ロレンスはこれに加えイギリスとアラブの間でアイデンティティを揺らがせることになる。ダルアーで捕まってたのってなんだったの? ダマスカスの円卓は、大事を成した興奮とままならなさがすごい。最後に空っぽになるのも。あえて手を貸さず、アラブ側が根を上げるのを待つイギリスの老獪さも。ただファイサルの交渉が、アラブ人の強かさを担保してくれる。人道に則って命令を無視して治療を行いながら、服装に象徴される人種への偏見でしか人を見れない握手のおじさんのような普通の人民のイギリス性も。このおじさんは植民地主義の功罪であって、伏線のはり方もあり声が出た。最後のバイクに追い抜かれるシーンは、オープニングとも重なりにくい演出。
建築が奇麗でよかった。また中東について勉強したいけど碌なことになってねえんだろうな。
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