すくりね

悦楽共犯者のすくりねのレビュー・感想・評価

悦楽共犯者(1996年製作の映画)
4.0
ヤン・シュヴァンクマイエル監督作。
同監督の作品を見るのは初めてだったが、いかにアブノーマルな作風で名高いとはいえども、ここから入るのは間違いだったのでは…?と思う程度には奇妙な作品。

概要としては、多種多様な嗜好を持つ人々が行う彼らの変態DIYをひたすら見せられるという、脳を確実に破壊しにくる作風で、とりあえず理解しようと思うのは放棄したほうが賢明な気がした。

ただ、その変態DIYはおそらくルーティンワークとして日常的に行われているであろうことから、作業の洗練具合は職人の域。
Youtubeにて謎の心地よさや満足感を得られる職人の見事な仕事ぶりのまとめ動画を見ているような感覚に陥ってしまう。

さらに、それらに使われる材料や小物などへの演出上の細かいこだわりもみられ、まるで雑貨店を眺めているような楽しさを感じた。

ただ一連の変態DIYはやはり常軌を逸しており、映像としても全体として灰白色の気色の悪い色合いで描かれるため気分が悪くなることは間違い無いだろう。

わかりやすい部類の例を挙げるなら、ある男は女性のヌードが載った雑誌を購入し、自宅にて駄菓子の粉末のオレンジソーダのようなものを水に溶かす。
そのソーダの泡が開いた雑誌の女性の肢体に垂れ、その跡を男はゆっくりとなぞる。
その後男はクローゼットの中に入ってゆき、しばらくした後衣服が乱れ、疲れた表情でクローゼットから出てくる。
アバウトタイムかな?

このように性的に直接結びつきのあるような嗜好に関しては全く共感はできないものの理解はできるだろう。
しかしこれでも正直序の口と言ったところ。

個人的にかなり具合が悪くなったのは、ある郵便配達員に関する変態DIYだ。

その女性配達員は、配達で立ち寄ったアパートの片隅でおもむろにカバンからパンの塊を取り出す。
そしてそれをひとつまみちぎり、指先を舐め唾液をつけた手でそれを捏ねて、丸い球に形作る。
それを繰り返し、アルミ缶に保存して持ち帰る。
こいつは無人島に行ったら確実にチネリ米を作るタイプだろうが、とりあえずこの時点ですでに気分が悪い。

ただ本番はここからで、彼女は就寝前、ベッドでそのパン球を器に取り出す。
そして引き出しからオレンジ色のチューブを2本取り出すと、それらを両の鼻の穴に挿し込み、思い切り鼻から息を吸って鼻腔にパン球を取り込む。
そして今度は漏斗を取り出して、それを使い耳の中にこれでもかとパン球を入れる。
そしてそのままぐっすりと眠りに落ちる。

翌朝、目覚まし時計で起きた彼女は、昨日取り込んだすべてのパン球を排出しアルミ缶に戻すのだ。

理解の追いつかなさと生理的嫌悪感で倒れ込みそうになるのだが、映画のラストではパン球を別の人間が別の形で使うことになる。
それもどうしてこうなった、的展開なのでもう考えるのはやめたほうが賢明だろう。


このようにとにかくバリエーション豊富かつ度し難い行動によって性的?なのかは分からないが、少なくとも快楽を感じている様々な人々が出てくる。

登場人物が感じている最中もオペラ調のスコアでやけに囃し立てられるので吹き出してしまいそうになったり。

これだけぶっ飛んだ内容にも関わらず、ラストではちょっとした登場人物同士の興味深い繋がりのようなものが描かれるという映画的な目配せもあったりする。

ただ、なんとなく自分の身近にもとんでもない癖を持った人はいるかもしれないし、自分は普通だと思っていても他人からすれば狂気としか思えないルーティンなどもあったりするんだろうなと考えさせられた。

この映画レベルのものは世界に1人とかだろうが。

まぁ珍品コレクターには確実に刺さる映画だと思うので、体調の良い日にニッチな趣向の博物館を眺めるように観るのがおすすめ。
すくりね

すくりね