シュトルム凸映画鑑賞記録用改め

きまぐれオレンジ★ロード あの日にかえりたいのシュトルム凸映画鑑賞記録用改めのレビュー・感想・評価

3.9
Netflixで配信されたので久々に観ました。うーん、この苦々しくも青春してる残酷物語。何ともう三十年!も前の作品になりますが、是非若い人にも観て欲しい(笑)

実家にパンフレットがあるんで、劇場などの記憶は殆ど無いですが、リアルタイムに映画館で観たんだろうな、と思います。恭介やまどかは世代はほぼ同じのお兄さん、お姉さんなのです。

基本設定は、転校生の春日恭介が同級生のちょっと不良っぽいが実は寂しがりやでミステリアスな鮎川まどかに一目惚れするが、その後輩で妹分の檜山ひかるにも気に入られてアタックされる。まどかも恭介のことを満更でもないが、ひかるのことも気にかかり踏み込めず、微妙な三角関係が続くという古典的ラブコメディ。その劇場版が本作なのですが…

キッパリ修羅場です。ひかるが恭介にキスし三人の関係の均衡が崩れる、それをひかる自身がまどかに暴露したことで、まどかは我慢できなくなり、恭介がひかると別れる方向に突き進む、という話ですが、甘く微妙な三角関係がテーマの原作やテレビシリーズを覆すような、ひかるを冷酷に切り捨てていく鬼畜っぷりが当時も話題になりました。

ひかるはね、すごくいい子なんですよ。ややうざいが、恭介に対して献身的で情熱もある。恭介以外の男は見えていない。でも恭介にはひかるとの間にまどかとの間のようなロマンティックな物語(恭介が孤独な不良少女まどかの理解者となり心を少しずつ開いていく…)がないんです。酷い話しではあるが、恭介はまどかとの恋物語の合間に、受動的にひかるの好意に身を委ねている。そりゃ何でなのかと言えば、この映画の中でも度々仄めかされているが、思春期男子の性欲ゆえ(一線は越えていないが)。そんなに好きでなくても、女の子に好意を持たれれば修羅場になるまでは身を浸していたくなるのだろう。

というわけで、なんだか男が酷すぎる話のようにも思えるが、この映画の中では、ひかるは恭介がまどかの事を好きなのを知っていた、という設定になっていて、そこには女の打算もある。更には、まどかも恭介のことを好きな事に、ひかるが本作の途中で気付くという描写が取られている。キスした事をわざわざまどかに暴露している所をみると、それ以前から予感もあったのだろうが、途中で確信してしまう。

ここでひかるの悲劇が始まります。何せ、鮎川まどかは不良少女ながらも、文武に優れ音楽の才能にも恵まれたお嬢様という設定のスーパーウーマンですから。まどかが恭介を相手にしないなら兎も角、両想いなら勝ち目はない。ひかるは言う。「まどかさんが先輩(恭介)のために何かしました?私は何だって出来ます!まどかさんはずるいです!」悲痛な叫びだが、どうしようもない。

多分、ひかるは恭介が身体を求めれば、身体だって捧げただろう。キスという先手を打ち、攻勢を仕掛けたつもりなのが、いつの間にか劣勢になっている。将棋の伝説的名人に挑む若手棋士のように、何だか分からないうちに逆転されているひかるが哀れです。何せひかるが猛攻を掛ける間に、まどかは自分の弱さを恭介にさらけ出して見せただけ、で逆転されてますから。

本作の心理描写はとても繊細で、まどかが恭介を電話で呼び出し、駆けつけた恭介がキスをしようとする、まどかは恭介がひかるとキスしたことを即座に思い出し、露骨に顔を背ける、そしてキスなしの抱擁に身を委ねる。このシーンがとても好きである。分かるよね、まどかの気持ち。簡単に男の不実を許せはしない。だが、想いは抑えられない。

遂に、雨の夜、恭介は持ち前の優しさを棄てて、自分をいつまでも待ってずぶ濡れになっているであろう、ひかるを完全に切り捨て、妹想いだったまどかはそんな恭介を許すことで、ひかるをやはり、切り捨てる。原作者が、こんなふざけた話は認められない!と憤り、黒歴史にした気持ちも分からないではない(笑)

しかし一方で、ひかるはミュージカルのオーディションに受かり、新たな自分だけの道を見つける。恭介とまどかのような物語を共有しないひかるにとって、実は恭介は唯一無二の相手ではない。その事を青春の痛みと共に知って、ひかるは一歩、大人になる。

余談 今回初めて気付いたが、まどかと恭介は母校の先輩かもしれない(笑)

追記 80年代って、やっぱり豊かだな、と。作品の作画の質とかも今見て何ら遜色がないし、作中で描かれる生活も今と変わらない、それでいて、空が突き抜けるような未来への希望がある。こんなに修羅場の作品でもね(笑)