半兵衛

喜劇 女売り出しますの半兵衛のレビュー・感想・評価

喜劇 女売り出します(1972年製作の映画)
4.2
この映画の登場人物の一人である米倉斉加年扮するスリは「笑わせるぜ」を度々口にする。最初は単にニヒルぶってるだけかと思いきや、彼のキャラクターがわかっていくうちにその「笑わせるぜ」という一言には様々な意味が含まれていることがわかってくる。世の中やその世界で何も出来ない自分への冷笑でもあり、やりきれない世の中への哀しみでもあり、他者への憐憫でもあり、苦しんでいる自分への慰みなど。

そしてこの一言が映画の重要なキーワードなのではないかと気づかされる、人はどんな悲しい目にあっても、怒りに充ちても、時間が経って明日になれば仕事に向かったり、家族と一緒になって行動したりしなければならない。そんなとき個人は怒りや哀しみとどう折り合いをつけて社会で生きていかなければならないか。大抵は米倉のような台詞は吐かないまでも、彼のように自分の感情を呑み込んで前を向いて次のことに挑んでいくと思う。

もちろん明日への希望、この映画では「小さな幸せ」もあると思う。新宿芸能社の面々はどんなひどい目にあっても小さな微笑ましい出来事に喜びを見出だし、前へ向かう活力にする。例えそれが徒労に終わっても、自分のパワーになればそれで充分だし、徒労に終わった人たちもしょげることなく次の目標に向かって歩く。この映画での森繁も言っている、「無い物ねだりが一番不幸せ」と。この無い物ねだりとは、いつまでも叶わぬ希望を背負ってウダウダして、活力もなくただ一日を生きるというニュアンスも含まれている。これは森崎東監督がデビュー以来、一貫して否定している行為である。

新宿芸能社で起こる様々なドラマが、ある小さな出来事で収束していく展開も印象的。それはある意味突飛だけど、そのあとの森繁と市原の会話でなんとなく幸せな気分になれる。その流れでのラスト、主人公でも夏純子でも米倉斉加年でもなく、一番希望の象徴である人物のアップで終わらすことで見てるこちらも明るくなれる。
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