櫻イミト

愛欲の十字路の櫻イミトのレビュー・感想・評価

愛欲の十字路(1951年製作の映画)
3.0
旧約聖書に基づくダビデ王の史劇。主演グレゴリー・ペック。監督は巨匠ヘンリー・キング。原題は「David and Bathsheba:ダビデとバテシバ」。邦題は異常だと思う。

3000年前のイスラエル。エルサレム宮殿に住むダビデ王(グレゴリー・ペック)は湯浴びする人妻バテシバにひと目惚れする。モーゼ十戒「汝姦淫するなかれ」を破った結果、神の怒りで国は大飢饉に見舞われる。。。

ずっと続けている聖書勉強のために鑑賞。

風変わりな聖書映画だった。当時の聖書映画と言えばスペクタクル史劇ばかりだが、本作はメロドラマ仕立てでダビデ王の有名な罪を描いている。ダビデ王の英雄的な側面が省略されているので、聖書の教養がない日本人には理解しづらいハイコンテクストな一本と言える。

旧約聖書の記述に大幅に肉付けし現代的な恋愛の価値観に寄せてダビデ王の不倫を描いたのは斬新ではあった。王の求愛に対し毅然と対応する女性バテシバや、衆前で王に罪を告解させようとする預言ナタンの姿は、現代アメリカの主張の権利を反映したもの。しかしそれが通用するためにダビデ王の威厳は矮小化し、英雄ならではの苦悩とはかけ離れた不倫反省劇になってしまった感が強い。だから聖書映画らしからぬ「愛欲の十字路」などという邦題を付けられてしまったのだ。

史劇の登場人物は当時の時代精神を逸脱して描くべきではないと再認識した。
櫻イミト

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