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Love LetterのERのネタバレレビュー・内容・結末

Love Letter(1995年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

 大切な人を亡くした時、残された人々はどうその死を克服していくのか。人が生きている以上避けられない永遠のテーマを、神戸で彼氏を亡くした渡辺博子(中山美穂)、そして小樽で父を亡くした藤井樹(こちらも中山美穂による二役)の2人にフォーカスを当て、ストーリーが展開される。

 生と死を象徴的かつ明確に切り分けるため、アイテムに対する拘りを非常に強く感じた。

 死者や死に囚われそうな存在が強調されている場面では、雪や青い光といった寒色系の色合いが多用されている。一方、現世に残された人物や生きる意志を強く持った人物にスポットが当たっているシーンでは、暖色系の色合いが画面を覆っていた。
 特に象徴的なのが、秋庭(豊川悦司)と博子が山に登った時のシーン。彼氏の樹への思いを引きずっている博子は、雪に覆われた状態で黒いコートを羽織っていた。しかし、物語が進みあるきっかけで樹への思いが吹っ切れそうになった際には、博子は黒いコートを脱ぎオレンジのニット姿になる。あたり一面も太陽の光により暖かく照らされて、博子が死者への思いを克服したシーンとして、とても印象的だった。

 小樽にいる樹の方でも、アイテムとして象徴的なものがあった。それがマルセル・プルーストの「第7篇 失われた時を求めて」である。樹はある人物から、この本を手渡される。
 この「第7篇 失われた時を求めて」という本は、プルーストの死後、弟のロベールらによって発行されたものである。まるで樹にこの本を渡した当人の運命をこの本自体が物語っているように思える。

 また、この本は白いカバーに青い文字でタイトルが書かれているが、そんな装飾のプルーストの本は現在日本で発行されておらず、おそらく本映画のために作られたものだと思われる。
 それだけこの本への製作者の思いが詰められているようで、事実この本がタイトル通り死者から生者への「Love Letter」としての役割を担っていることが発覚したシーンはかなり好きだ。

 死から克服する人々の想いを描くために、様々な技法を駆使して映画的に描いている、そんな岩井俊二監督の拘りを強く感じられて個人的にかなり好きな映画だった。それを実現するスタッフも凄いし、主演の中山美穂さんの二役の演じ分けも凄い。生者を強調するためか、序盤のキスシーンで中山美穂さんが少し照れる演技は、とにかくかわいくてとてつもなくエロい。
 面白いだけでなく、多くの人と離別して生きていくことについて、考える機会を与えてくれる良作だった。
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