天馬トビオ

Love Letterの天馬トビオのレビュー・感想・評価

Love Letter(1995年製作の映画)
4.0
冒頭、黒ずくめの中山美穂が亡き恋人の三回忌のために雪の原を降っていくシーンから、これはただものではない映画だ、という予感が走る。全編を通して原色はほとんどなく、冒頭と同じ雪のモノトーンが支配する。美しさが際立つ落ち着いた画面に、交互に交わされる手紙を読む二人の言葉がなじんでいく。

一人の男性をめぐる二人の女性の姿を描く悲恋映画の傑作。これでもかというくらいピュアでせつない――だからこそ美しく、だからこそ残酷な物語。手紙という、心や思いを伝えるアナログ的な手段が実に効果的に使われている。同じように手紙通信が男女の気持ちをつなぐ森雅之のマンガ『追伸―二人の手紙物語―』を思い出した。

一人二役でヒロインを演じる中山美穂がいい。同じ男性を時と場所を違えて愛してしまった二人――神戸在住の一人はおっとりで控えめ、小樽在住のもう一人は積極的でさばさばしている――を、見事に演じ分けている。前者が手書きで手紙を書くのに対して、後者がワープロを使っているところも、二人の性格の違いを表わす名演出。

物語中盤、過去パートが始まり中学生時代の酒井美紀が登場するあたりから、物語の比重は徐々に小樽在住の女性に移っていく。中学時代を思い出すことで、ああ、あれは私の初恋だったのだとあらためて意識し、悲しみのバトンを引き継いでいく小樽の女性。小樽時代の過去を知り男性への思いをより強くするものの、それでもすべてをふっきって新しい人生を歩もうとする神戸の女性。一度も顔を合わせることも、声を聞くこともなくない二人。長い人生の間でほんの一瞬だけ交差した二人の人生……。

伏線として用意されていた亡き男性の部屋に残された風景画。そして、中学校の図書室に架蔵されていたプルーストの『失われた時を求めて』。美大で油絵を専攻したくらい絵が好きで、最後に男性が借りた本が同書第七編で、そのタイトルが『見出された時』だった。これらの伏線が明らかにされたとき、ぼくらは似顔絵が描かれた図書カードこそ、少年が少女に捧げた、この映画のタイトル〈ラブ・レター〉そのものだということに気が付くのだ。

何度も書くけれど、ピュアでせつない悲恋映画の傑作だと思う。
天馬トビオ

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