Ginny

Love LetterのGinnyのネタバレレビュー・内容・結末

Love Letter(1995年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

最初は、少し退屈かもしれないと思いながら見ていたのが、藤井樹の謎と一人二役がわかった時に(鈍いのと理解力低いので、気づくの遅かった)何これ面白い!となった。印象がガラリと変わった。

とても丁寧な脚本と映画の描かれ方。
独特のスモークがかった映像が素敵。
他作品の予告編を見てこの映像表現は知っていたけれど岩井俊二監督作品をきちんと見るのは初めて。映画全編を通して見ると、その映像美に浸れて改めて良いものなんだなと。
特に自然光の映し方が美しいと感じました。ただそのままを映すのではなく、そこに漂う空気までも映像に乗せる。

不思議な間柄、縁ができて、続く文通のやりとり。
藤井樹(female)の語り方がこまっしゃくれていて言葉がコロコロ小気味よく中山美穂の樹(female)の快活な演技も相まってとても良く、台詞を聞いていてとても心地よかった。
渡辺博子は博子で声色や話し方など対照的に演じられて区別がつけられていて、中山美穂ってこんなに演技が上手な人なんだと感心しました。

でも、思ったのが。
樹(female)の中学時代の回想シーンのその当時の学生たちと、現在時間軸での学生たちはお世辞にも演技が上手とは言えない子達ばかり。だが、それが悪くない。
監督の演技指導と撮り方次第で生かされているのかなと思いました。
演技が下手な人がいると冷めてしまいがちなのですが本作ではそうなりませんでした。
中学のシーンは演技だけに比重をおかず、若い役者陣のありのままの雰囲気を大事にしたのかな?(是枝監督の子役への演技指示を想像)

考えてみれば幼い学生時代で喋りも感情表現も表情も芸達者な人はリアルにはあんまりいないので、演技が上手じゃない方がリアリティがあるのかもと思っています(アニメの声優さんがアテレコするキャラクターみたいな喋り方の一般人はアニメ好き以外はいないのと同様に)。

というわけで中山美穂の演技も良かったけれど岩井俊二監督の演技指導も上手かったのかな?と思った。

そして、キャスティングが良い。
樹(male)の中学生時代が柏原崇というのが天才すぎる。ドラマ「白夜行」で見て漂わせる空気感に惹かれた俳優さん(引退されたみたいですが)。
顔の造形が整っているのはまぁ勿論その通りではあるけれど、映像作品で輝く人は、顔が良い以上の印象と魅力を外見から伝えてくれる。
喋らなくてもただそこにいて映されるだけで雄弁に語る。彼はそんな人だなと思いました。
2人の女性が語る樹(male)はキーパーソンなので安っぽかったり魅力がないと作品がぶれてしまうのに、柏原崇の樹(male)がとても良くて作品が保たれていた。
樹(female)の酒井美紀も素朴さ若々しさがありめっっちゃ良かった。かわいいー!
学生特有の儚さ、愁、脆さ。薄氷の上に保たれてる絶妙なバランスが繊細に描かれていて満足。

山岳事故で亡くなったなんて、以前までの私なら、だから山なんて危険なんだよッて突き放してましたが『神々の山嶺』の漫画を読んでからは、山に登るのはそれはそれなりのロマンがあるんだなと腑に落ちてるので野暮なことは言わないです。

続いた文通が、どう終わるのか。
この映画が、どう終わるのか。
その終わり方もとっても素敵で感動。

渡辺博子が今までのおしとやかで控えめな様子と打って変わって感情を発露し山へ叫ぶシーン。
語れるエピソードがもうないからと文通が終わる時、貴方の思い出だからと渡辺博子から今までの手紙を樹(female)に贈るシーン(そんな粋なことある?!)
中学生が本を届けてくれて、何かと思ったら樹(male)が書いた藤井樹の名前しかない図書カードの裏には樹(female)の絵(こんな素敵な想いの表現ある?!)。

見終わって改めてlove letterというタイトルが秀逸でこれ以上ない素晴らしいものなのだとしっくりきます。
私も中学生〜高校生の頃はハリポタを通して仲良くなった子複数人と文通していたので、文を交わす楽しさが懐かしく思い出されました。返事が待ち遠しい日々、ポストに届いていた時の喜び、開封する時のワクワク。BBSで知り合ったこの子はこんな字を書くんだという手書きならではの感動。

連絡を取る、のではなく、
想いを伝えるために綴る。

渡辺博子と藤井樹の文通だったけれど。
手紙を書くことで自身に向き合い、過去の思い出を振り返り、過去の藤井樹と再会し、知らなかった藤井樹と対面する。
渡辺博子へ宛てていたけれど、その手紙の中で樹(female)は樹(male)を振り返り、綴った手紙は彼への…と思った。
動機もきっかけも、難しそうなのにごく自然に設定されて話が進んでいって面白かった。

樹(female)の風邪をこじらせるシーンも良かったなと今思う。
風邪を拗らせて亡くなった樹(female)父。山岳事故で亡くなった樹(male)。
死と生の対比に思えた。
常に生きている限り死と隣り合わせ、身近なところに死はあるけれど、生きてる限り懸命に生き謳歌する。湿っぽくなく吹っ切れてカラッと終わる感じがまた心地良い。
Ginny

Ginny