【お元気ですか】
映画「青春18×2 君へと続く道」で引用された作品で、また注目されるかもしれない。
岩井俊二さんの劇場用長編映画初監督作品で、数奇な運命と運命の悪戯、そして、それぞれの思い出を葛(つづら)折りのように綴ったラブストーリーだ。
好きな女の子の名前を何度も書いたことはないだろうか。
僕は、雪国の出身なので、冬、自分の部屋の窓の内側の結露が凍って白くなったところに好きな女の子の名前を指で毎日のように書いたことがある。
(以下ネタバレ)
樹はきっと自分(博子)に瓜二つの小樽の樹のことが好きだったのだ。
だから、きっと樹は自分(博子)を好きになったのだ。
だが、小樽の樹は、樹の気持ちに気付くどころか、意識もしていなかったのだ。
この作品の素敵で切なくて胸が熱くなるのは、博子が小樽の樹との手紙のやり取りを通して、図書室でのあれやこれやを中心に思い出を蘇らせ、樹の気持ちを小樽の樹に気がつかせようとしたところだ。
そう、樹の伝えられなかった気持ちを伝えるラブレターだ。
そして、樹は過去の樹を探し、樹の死を知り、博子の気持ちも理解する。
博子も踏み出す。
「お元気ですか」
もし好きだった人が亡くなってしまっていて、やっぱり忘れられなくて、でも、踏み出せたら言えるだろうか、心に秘めたままだろうか。
強がりでも「私は元気です」と言いたい。
人を好きになることは本当に素敵だと思わせてくれる作品だと思う。
そして、この作品の好きなところをもうひとつ。
実は樹自身も樹が気になっていたことに自分も気がついたはずなのに、それを心に閉まったままにしているところだ。博子に対する気遣いなのか、図書カードの裏に樹が描いた少女時代の自分の姿とともに大切な思い出だ。
ところで酒井美紀さん鈴木蘭々さん、なんか良かった。