佐藤克巳

南風の佐藤克巳のレビュー・感想・評価

南風(1939年製作の映画)
5.0
主人公キクは林芙美子の実母の名、林と画学生との結婚も事実からして自伝的作品の映画化を、松竹の成瀬である渋谷実監督が流行りのメロドラマに反発したかの様なシリアスな女を描いた傑作。兄笠智衆が、恋人徳大寺伸を頼って上京する妹田中絹代に忠告を与えた様に、田中は徳大寺に捨てられ娘を出産の憂き目に遭った。職場の同僚水戸光子は何かと世話を焼き、画学生佐分利信は、楽団員となり田中と家庭を持ち娘を引き取ったが、上京して来た母の説得には難儀した。だが、帰郷する母に、産婆に預けた娘が死んだ事を伝えると、母は田中に同情し風向きが変わった様に帰宅する。田中が窓から覗くと二人の姿を目撃、終始寡黙だった田中が初めて清々しい微笑みを見せた。前作「母と子」より難解な役どころを演じた田中が見事光った瞬間だった。
佐藤克巳

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