【バルコニーで笑う男】
ただ作られた年が古いだけで、『ローマの休日』や『風と共に去りぬ』に対して「渋いなぁ」と言われると何か違和感を覚える。
渋いっていうたら、この辺クラスの映画でなくちゃ。
ジョセフ・L・マンキーウィッツ監督、ジェームズ・メイソン主演のスパイ映画『五本の指』。
地味ながらも語り口の巧さでぐいぐいとひきつける通好みの傑作。
またフランス映画史上最高の美女と謳われたダニエル・ダリューの数少ないハリウッド映画でもある。
原作は実際にあった事件で、第二次世界対戦中、連合国軍のノルマンディー上陸作戦の情報が実はスパイの手によってドイツ側に漏れていたというもの。
舞台となるのが当時の中立国トルコ。『007/ロシアより愛をこめて』もそうだけど、やっぱりトルコという国はスパイ映画の絶好の舞台なんだなぁ。
ジェームズ・メイソン扮するイギリス大使館の給仕が、大使の部屋の金庫から機密書類を盗撮し、フィルムをドイツ側に売り渡していた。
彼には意中の人がいて、昔仕えていた侯爵の未亡人(演:ダニエル・ダリュー)がその人。旦那亡き後、困窮にあえいでいた彼女を援助しようとメイソンは悪事に手を染めたのだった。
で、劇中にメイソンが大金を手にいれたらリオデジャネイロへ高飛びしようとダリューに打ち明ける。
メイソンにとって昔立ち寄ったリオにて豪邸のバルコニーに立つ男を見てから、ずっとああいう生活に憧れていたというシーンがあるが、このくだりがラストに見事に直結してくるのが巧い。
あと冷静沈着で慎重居士であるメイソンが初めて尻尾を捕まれる場面、ここの観客への見せ方も実に巧かった。
しかもラストをメイソンの虚無的な笑い声が包み込む。幕を閉じたあとでもあの声がしばらく耳から離れなかった。
■映画 DATA==========================
監督:ジョセフ・L・マンキーウィッツ
脚本:マイケル・ウィルソン/ジョセフ・L・マンキーウィッツ
製作:オットー・ラング
音楽:バーナード・ハーマン
撮影:ノーバート・ブロダイン
公開:1952年2月22日(米)/1952年10月23日(日)