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12モンキーズのeucalypsoのレビュー・感想・評価

12モンキーズ(1995年製作の映画)
4.0
過去と未来を行き来するブルース・ウィルスの任務は地味な隠密活動で、目を見張るスペクタクルや事件らしい事件が起こるわけではないけど、いくつものミスリードで惑わせつつ、空港のクライマックスまで、落ち着いたペース配分でサスペンスを持続させる手腕は見事。

「ブレードランナー」も手がけたデヴィッド・ピープルズの脚本がかなり貢献してるはず。彼が持ち込んだであろう原案の「ラ・ジュテ」をギリアムは制作中観てないらしく、あくまでアイデアの翻案に留まってるのも、作品の価値を底上げしている。

一本気でちょいカッコ悪くも愛嬌あるブルース・ウィルス、真面目で堅物の医師を演じるマデリーン・ストウの美女と野獣コンビ。

キレッキレの演技というか、ときどき素に見える狂言回しのブラット・ピット。ブルースもブラットもサル顔なので、ゴリラとチンパンジーに見えなくもない、笑。脇を固めるクリストファー・プラマーやデヴィッド・モースの重厚さもイイ。

90年代のフィラデルフィアという舞台。数多くの黒人がキャストやエキストラに配され、ブルースの相棒はラティーノ。「未来世紀ブラジル」から10年経たことを否応なく感じる。

それを無言で表象するのが、2度画面に映るナズの「イルマティック」のポスター(今見ると感慨深い)。街のあちこちの壁にはグラフィティがあり、スプレーによるタギングが世界を救う重要なメッセージになる。

ブルースが懐かしむラジオの音楽も、「ブルーベリー・ヒル」「この素晴らしき世界」。何より作品に寄り添うピアソラのバンドネオンは、これ見よがしな郷愁を超えて胸に響く。

スチームパンクなガジェット、魚眼レンズ効果や仰角カットの多用と、ギリアム節は健在だけど、要所で使い分けて、あまりうるさくは感じない。

ターナーの風景画にスチール・ギターの「スリープ・ウォーク」が被り、科学者たちが「ブルーベリー・ヒル」を歌い、ブルースがテディベア柄の毛布で寝てるという構図は、近作「ゼロの未来」にも通じるギリアムらしいシュールな楽園憧憬。作中ではそれがブルースの行動原理となり、フロリダへの逃避行〜サッチモの「この素晴らしき世界」につながる。

2人が観るオールナイトのヒッチコック特集でも、「めまい」の切り株の年輪が歴史とシンクロすることを示すシーンで直球をかまし、直後に「鳥」の襲撃でケムを巻く。

チンパンジーやトラやキリン、動物たちが夜明けから朝方のフィラデルフィアの街を闊歩するシーンは、冒頭の人類が住めなくなった地上に生きるクマやライオンやフクロウと呼応し、円環が閉じられる。ラスト手前の刹那的で清々しい解放感に満ちていて、本作の中でも特に好きだ。

ヒッチコックを思わせる手堅い演出で、それまでの人間模様、パズルの断片が組み上がる空港のシーケンスは感服だけど、とにかく切ない。バックにストリングスが流れるが、ここは無音の方がよかったかも。

飛行機内で犯人の横に見覚えある女性が座り、救済保険の仕事をしていると自己紹介する、「インセプション」ばりの鮮やかな幕切れ。彼女は未来から来たのか、たまたま居合わせたのか、どっちにも解釈できるけど、自分は前者。じゃないと、やり切れない。

ループ物としてもやり過ぎず、2人のブルースが同じ時空に偏在するタイム・パラドックスもサラリと流して(マデリーンと少年ブルース、2人の目のカットバックだけで充分)、ペシミスティックに傾きがちなテリー・ギリアムが、希望と絶望、ユーモアと真面目、自身の作風と時代性をバランスよく織り込んだ作品。

リリースから20年経って、イイ感じに古びて(映像もやや眠い)、初見時はそれほどじゃなかったけど、観直したらメチャ良かった。ウレシイ再会。
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