とむ

いちご同盟のとむのレビュー・感想・評価

いちご同盟(1997年製作の映画)
3.5
ピアノの演奏を得意としながらも高校受験に悩み、飛び降り自殺した同年代の少年に感化されて死への思いを巡らせている良一。将来のプロ入りを期待されるほどの野球の技量を持ち、女子からの人気も高い四番のエース、徹也。徹也の幼馴染みで重病を患い入院している少女、直美。
それぞれの間に育まれる友情や恋心、人の死や思春期特有の苦悩と成長を穏やかなタッチで描いた青春映画。

主役の良一を演ずる俳優は実際にピアノを演奏できることが最低条件で、オーディションで大地泰仁が選び出された。直美や徹也、大人たちとの交流を通して成長していく姿を実直かつ初々しく表現している。

徹也を演ずる谷口秀哉は本物の野球少年で演技の経験は皆無。周りのスタッフに反対されながらも監督の独断での採用となった。映画への出演はこれが最初で最後であり、台詞も棒読み。それでも試合の場面では経験者ならではの立ち居振る舞いの迫真さを伝えているし、熱意ただ一つだけで押し通すようなドラマ部分での佇まいもそれはそれでありかと思えてくる。

純朴である一方で終始ぎこちなさの抜けない少年二人の相手役が、ヒロインの岡本綾。病を抱え、死に引きつけられる良一に共鳴しながらも健気に生きようとする薄幸の少女、直美。飾り気のない表情の内側に暗い陰を感じさせる岡本の魅力があってこそこの映画は成り立っている。

病気の娘を見守る父親(岸部一徳)の苦悩や、生きることのやるせなさを良一に語りかける父(古尾谷雅人)の哀感も印象的に描かれていて、良一が一人の男として成長していく筋書きには説得力が感じられる。

原作の小説に比べるとどうしても主人公たちの心の奥深くにある心情までは伝えきれない部分もある。直美が良一にグラウンドでとある提案を持ちかける場面や手術前に病室で二人きりで向かい合う場面は、重要なシークエンスであるはずなのに若干あっけない印象が拭えない。
それでも等身大の少年少女の姿を地味ながらも瑞々しく描いた青春映画として記憶に留めておきたい。

惜しむらくはDVDが廃盤状態で、中古販売かオークションで出品されているのを入手しない限り鑑賞が困難であるということ。製作・著作元の会社は既に消滅しているようなので、今後も日の目を見る可能性は期待できないのが残念でならない。
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