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民族の祭典のtakのレビュー・感想・評価

民族の祭典(1938年製作の映画)
3.5
 2002年8月、99歳にして新作ドキュメンタリー映画を発表した映画監督レニ・リーフェンシュタールの有名な代表作。これはナチス政権下で行われたベルリンオリンピックの記録映画である。ギリシャの神殿から始まる幻想的なオープニング場面は実に美しい。

 聖火が運ばれる描写のあと、もちろん開会宣言はアドルフ・ヒトラー。ヒトラーはしばしば画面に登場、国民とともに観戦している。ドイツ選手が活躍する競技にスタンドで狂喜する。女子のリレーでドイツ選手がバトンを落として最下位になる場面では、残念そうに席につく。そしてドイツがメダルを取ると国旗として掲揚されるのは、”ハーケンクロイツ”が描かれたナチス旗。ドイツ選手のユニフォームにもカギ十字は描かれている。当時としてはまぁ当然なのだが、その後にナチスが行った事を知っている今の視点で見ればちょっと驚いてしまう。第1部の「民族の祭典」がメジャーな競技を中心にしているのに対して、「美の祭典」の方は監督が映像美にこだわって撮ったもの。冒頭、全裸の男性が水辺を走りサウナで身を横たえる場面があったり、肉体美にこだわったとも言えるかも。

 ナチスのプロパガンダ映画として製作された意図があるのは有名な話だが、それを抜きにすれば、純粋にスポーツを賛美する映画として面白いし、興味深い。ゲルマン人が砲丸投げで熊みたいなアメリカ選手を破ったり、リーチにすごい差がある黒人選手を短距離走で破ったりする姿が強調されている。もちろん身びいきあっての演出だろうけど、これは見ていて小気味いい(それってプロパガンダにはまっている?)。日本人選手の三段跳びでの活躍、メダルには届かないものの男子走り高跳びでの活躍も印象的。走り高跳びはマットがなく、みーんな挟み跳びをしているのだけれど、日本人選手のライダーキックにも似た跳躍や、背面跳びにやや近いアメリカ黒人選手の跳躍をスローモーションで見ることができ、面白い。

 僕が釘付けになったのは、決着がつかず競技が夜に及び、日米5選手によるメダル争いとなった棒高跳び。黒闇を背景にバーにすれすれを跳ぶ選手達の動きをスローで見せるのだが、ちょっとした動きにもハラハラする。オリンピックはいつも数々のドラマをつくってきたが、SFXではなし得ない感動がここにはある。やっぱり人間って素晴らしい。棒高跳びで使う棒が竹製だったり、短距離走のスタート地点は今のように足置きがなくて穴を掘っていたり、鉄棒や吊り輪といった体操競技が屋外で行われていたり、時代を感じるところも面白かった。

 そしてクライマックスのマラソン。走る選手の横顔と交互に挿入される選手の視線。手のアップ、走る足下のアップ、後方へ遠のいていく木々。見事なカメラ。そして日本選手が優勝するのだが、その選手の名はソン(孫基禎)。占領下の朝鮮人選手だ。3位にも同じくナム(南昇竜)選手が入る。この二人の活躍を報じた朝鮮の新聞は、二人のゼッケンの日の丸を朝鮮のマークに書き換えて写真を掲載したという事件も起こったそうだ。当時の状況を考えると、ここだけは複雑な思いにならずにはいられない。
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