ryosuke

霊長類のryosukeのレビュー・感想・評価

霊長類(1974年製作の映画)
3.8
やはり霊長類研究所という題材自体が強い。オランウータンの射精する瞬間なんて中々見る機会もないし、それだけで楽しい。普通に筒状の物体でこすって精液を採取したりもするんだな。
サルの入った台車付きケースがひとりでにガタガタ動く様(そういえば「動物園」にも痙攣するウサギがバケツを震わせるシーンがあった)に、悲しそうな鳴き声が被さってくるショットなどインパクトがあるのだが、これは現場で実際に起こっていた出来事なのか、音と映像の編集の力なのか。
人類の進化について語る研究員の発話に、彼がサルに合わせて飛び跳ねながら遊ぶ映像が重なることで、どことなく進化前の人類を思わせる編集も面白いアイデアである。「チチカット・フォーリーズ」の死体とのカットバックもそうだが、単純に遊び心があるだけでなく、このようなシーンが一つ入ることでドキュメンタリーにおいても間違いなく働いている編集の力を覆い隠さず明らかにしているとも言えるのではないだろうか。
リスザルの脳に電極ぶっ差して刺激を与えながら、「いい勃起ね」などと話している研究員のシーンは残酷さとブラックユーモアが同居しているワイズマンらしいシーンとなっている。電極から刺激があるたびに短時間交尾をするサルのシーンなど、何か見てはいけないものを見ているような雰囲気すらある。これは彼らの姿が人に近いからこそだろうな。我々人間の情動や行動も単なる入力に対する出力、刺激に対する反応に過ぎないのではないかということを感じさせられてしまうのだ。
まだ心臓が生々しく動いているリスザルの首が子供の残酷な人形遊びのようにあっさり切り落とされるシーン、彼の脳が露出された生首などやはりショッキング。「肉」の食肉解体処理過程の最初の部分や、「メイン州ベルファスト」の狼射殺シーンなどもそうだが、ワイズマンはさっきまで生きて動いていた動物が一瞬で「物体」と化す瞬間を予告なしにぶち込んでくる。
オランウータンの容体が急変するシーンの研究員たちの会話も印象深い。「可哀想に。いいサルだったが。」「いいサルだった。」というセリフは、彼らはどういうケースなら「可哀想」だと感じるのか、「いいサル」の基準とは何なのかということを考えていると、ちょっとゾッとするような趣がある。断末魔の悲痛な鳴き声が、徐々に声のない叫びに変わっていく描写の凄み。
あと、「動物園」を見た時も思ったけど、ゴリラって見るたびにこんな形だったっけ?って思うな。特に真横から見た時。まあどうでもいいが。
ワイズマンは会議で居眠りしている人間は絶対に逃がさない。
個々の実験の目的や、それが科学的にどのような意義があるのかは説明されないことが多いのだが、これはドキュメンタリーというものについての考え方として好感がもてる。ナレーションや字幕を多用して情報伝達の精度を上げるよりも、美学的な成果の達成や、現実的で信憑性のあるイメージの醸成を重んじるワイズマンのスタイルはやはり良いな。
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