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ロゼッタのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ロゼッタ(1999年製作の映画)
4.1
 映画は冒頭、いままさに職を失わんとする主人公の姿がリアリティを持って描かれる。彼女は彼女なりに一生懸命働いたが、雇用側は容赦なく解雇を言い渡す。その一方的な文言に暴走した主人公は、あらゆる部屋のドアというドアを勢い良く締めていく。労働者が雇用側とどれだけ口論になろうが、決まったことは大抵覆すことは出来ないが、それにしてもこの主人公は雇用側を説得する賢い説得の仕方を知らない。主人公の怒りはただドアを締めるだけに留まり、まったく要領を得ない。彼女の家はキャンプ場のトレーラーハウスで、アルコール中毒の母親と2人で暮らしている。一応路上生活は避けられているものの、その生活は楽ではなく、アルコール中毒の母親は、娘が働いている間に男を連れ込んでいる。絵に描いたような底辺の暮らしぶりであるが、彼女にはより高度な仕事に就くような技能も学もない。だからこそ底辺の仕事を奪い合うし、日々の仕事を得ることで手一杯でその先のビジョンがない。トレーラーハウスの近くにあるいつも立ち寄るワッフルスタンドで、偶然新顔の店員リケ(ファブリツィオ・ロンギオーヌ)と知り合った主人公は彼に色々と親切にされるが、その気持ちに対して素直に応えることが出来ない。

 中盤の沼で溺れかけたリケに主人公が手を差し伸べない様子は、その前の母親との取っ組み合いから沼に突き飛ばされた場面と呼応する。映画は決してこの主人公の生い立ちや恋愛観すらも明らかにしようとしないが彼女の行動と僅かな言葉の残酷さが逆に彼女の生い立ちの過酷さを物語る。『ロゼッタ』が当時のヨーロッパ映画に与えた影響はあまりにも大きい。社会の底辺に生きる労働者や移民の生きるための切実さをそのまま物語の中心に据える真の強さ。非商業俳優を起用し、ドラマチックな展開を極力排した脚本、現実音だけで音楽のない物語、その中でも最も異様だったのは、登場人物に対するカメラのあまりにも近過ぎる距離である。極端に言えばカメラは映画の冒頭からラストまで主人公に張り付き、その身振り・行動全てにへばりつく。時に息苦しいほどの被写体との距離で彼女に肉薄しながら、ぶつかりかねない緊張感を放っている。この映画の主人公が異様なのは、「仕事ないですか?」以外の言葉をほとんど発しないのである。普通の10代のヒロインならば、友達との会話に自然と性格が滲み出るものだが、今作においてロゼッタには友達はおろか、兄弟や親戚や仲の良い同僚すらも出てこない。彼女の母親とキャンプ場のオーナー、ワッフルスタンドのオーナーとリケが僅かに出てくるのみで、彼女の退屈な毎日はこれらのシンプルな人物たちとの会話の中でしか進んで行かない。
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