糸くず

NARC ナークの糸くずのレビュー・感想・評価

NARC ナーク(2002年製作の映画)
4.0
デスクでの仕事に戻りたい麻薬捜査官と相棒殺しの犯人逮捕に燃える刑事のバディムービーとくれば、互いの立場を越えた友情か共犯関係の泥沼が定番といったところだが、この映画は一味違う。

妻を亡くし子どももいないヘンリー(レイ・リオッタ)にとって、相棒のガルベスはただの相棒以上の存在だ。ヘンリーは、ガルベスとその家族を守る責任を自ら背負っている。彼を失ったショックは大きく、妻子に暴力を振るって捕まった男を警察署でボコボコにするくらい情緒不安定だ。

一方、ニック(ジェイソン・パトリック)にとって、ガルベスは赤の他人である。しかし、麻薬密売の潜入捜査官だった点で重なるところがある。ニックは停職中だった。その理由は子どもを人質にとったジャンキーに対して発砲した際に流れ弾が妊婦に当たり、胎児が死亡したからだ。彼がデスクワークを望むのは、このショックが直接的な原因だ。

この物語の肝は、二人が平常心を保っていられないこと、二人とガルベスとの距離感の違いにある。ヘンリーとニックとでは見えているものも追いかけているものも違う。同じものを追っているようで、実は違う。彼らには友情も共犯関係もない。常にピリピリとした雰囲気が支配する。

ニックは、潜入捜査の経験や捜査資料を繋ぎ合わせていくうちに、ヘンリーへの疑惑を抱く。ニックとヘンリーの地道な捜査から浮かび上がってくるのは潜入捜査の孤独と過酷さが人間の精神を蝕んでいくことだ。ニックが自らとガルベスを重ねることで、その苦痛が身に迫ってくる。

貧相なジャンキーにしか見えないジェイソン・パトリックのキリキリとした冷たい孤独、守るべきもののために感情を爆発させるレイ・リオッタの怒り、どれも記憶に残る熱演だ。二人にとっての代表作と言っていいと思う。
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