Ricola

秋立ちぬのRicolaのレビュー・感想・評価

秋立ちぬ(1960年製作の映画)
4.0
田舎から母親と一緒に上京してきた少年。
都会といった環境からだけではない少年の孤独が、少年の視点から物悲しくかつ残酷に描かれている。
少年は期待と失望を繰り返すのだが、それは渡ること、乗ることといった、この2つの繰り返される行動に集約されている。


渡ること。これは少年の孤独とリンクしている。
車がビュンビュン走る道路を、なんとかタイミングを見て渡ることが、都会では求められる。
母と二人ならなんとか渡れたけれど、一人だとタイミングを見計れずに友だちに取り残されてしまう。彼はそれで孤独を改めて感じることになるのだ。
それから橋を渡るという行動。
彼は母と歩いている際に、橋の上で少女と出会う。彼女と遊んでいるときには、彼は孤独から一時的に逃れることができる。
橋を渡ることは、出会いと別れを予感させる行動なのだ。

次に乗り物に乗ることについて言及する。
何かに乗ってどこかへ向かうとき、少年は期待を胸に抱く。
母との新たなスタートを切ることにドキドキしながら列車に乗ったり、バイクの後ろに乗せてもらって、長野での思い出が想起されるような森に連れて行ってもらったり、海を見るためにデパートのエスカレーターやタクシーに乗ったり…。

徒歩で橋や道路を渡ることも、乗り物に乗ることも、希望と失望の予感として登場する。
東京での新生活にワクワクしながら母親と、または不安を抱えながら同年代の友だちとともに道路を渡ったり、故郷を感じる期待を抱えながらバイクの後ろに乗ったり、新しい世界を求めてエスカレーターやタクシーに乗ったり…。
しかしその渡った先、向かった先に、期待した光景が待ち構えているとは限らない。

子供は大人の自分勝手な都合に振り回される。大人に期待させられるものの、大人に裏切られる。純粋無垢な子供の思いが、彼らの真っ直ぐな視線が苦しくも感じられる作品だった。
Ricola

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