「大人は判ってくれない」のようでした。後半の晴海の浜辺の情景は、ヨーロッパの映画を観ているみたい。浴衣姿の少女と少年のひと夏の思い出は哀しく清らかでした。
松坂屋の屋上から海が見えた頃、まだ銀座には空き地があり、大通りには信号もなく、首都高はノーヘルで二人乗りができた。
カブトムシは東京にはいない。
少女のために探す少年の喜びもつかの間。
少女にとっても少年にとっても、大切なものを見つけられない町。
失うことばかりの町。
少年の境遇がかわいそうだったけれど、大人の事情に振り回されるのは少女も同じ。いつ、真実を知るのだろう。少女が何もかも分かってしまう時が怖い。少年は少し大人なぶん、少女より早く知るのではないか。無垢な少女の思い出を抱いて。
成瀬監督作品まだ二本目。監督らしからぬ作品らしいけれど、とっても気に入ったのは、少年の雰囲気。少年は常連子役だそうで、少年らしい哀愁を湛えていた。トリュフォーのレオみたい。この少年の他の作品を観てみたくなりました。
昭和の東京弁や発音、抑揚が懐かしい。あんた、あたし、こんちは。今は聞かない。江戸っ子のとも違うみたい。
銀座に八百屋、だっこちゃん、オート三輪、晴海の引き込み線、細い柳。
高度成長期の頃、光の当たるものの後ろには影があった。