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グリーン・カードのodyssのレビュー・感想・評価

グリーン・カード(1990年製作の映画)
4.0
【グリーン・グリーン】

移民と偽装結婚というお話で、今からすると時代を予見していた映画かなと思ってDVDで鑑賞してみました。だけど、ちょっと予想とは違いました。

現代は米国でもヨーロッパでも移民問題がクローズアップされています。だから映画でも移民との偽装結婚をテーマにした『ロルナの祈り』だとか、難民を安い賃金でこき使い搾取する問題を扱った映画『この自由な世界で』だとかが作られている。そういう、社会性を重視した昨今の映画たちと比べると、これはずいぶんとロマンティックで映画チックな作品だと言えます。いや、最近でもロマコメの『あなたはわたしの婿になる』なんかがありますけどね。

タイトルの「グリーンカード」は外国での永住権のことだけど、この映画ではグリーンという言葉が他にもいくつか出てきます。まず、ヒロインが打ち込んでいるのが温室作り。温室が英語でグリーンハウス。そしてグリーンゲリラという言葉も出てくる。NYが発祥の地で、公共の場所にコミュニティガーデンを作る人たちのことだとか。

「グリーン」が多用されているのにはそれなりの時代背景があるわけです。つまり80年代以降、米国では環境意識が高まり、一方で自然らしい環境をNYのような大都会にも求めようという運動が広がり、それが他方ではヴェジタリアンを生みだしていくことになる。この映画でもヒロイン(アンディ・マクドウェル)の元恋人はヴェジタリアンだという設定になっています。またヒロインはタバコを吸わないだけでなく、自室内で吸われるのも嫌がるし、コーヒーも味わいより健康を重視して極く軽い味のものを好んでいる。温室作りは言うまでもありません。この辺は自然志向やヘルシー志向が急速に高まっていっているこの頃の米国を映し出している。

フランス出身のジョージ(ジェラール・ドパルデュー)はそういう彼女を見て、もっと人生を楽しむべきだと忠告する。まあ、こういう設定はフランス人というものに対する米国人のステレオタイプ的なイメージを映したものにすぎないとも言えるでしょうけど。ステレオタイプと言えば、彼が土壇場でピアノを弾いてみせるシーンなんかもそうですね。フランスはなんだかんだ言っても芸術の国なんだから、というイメージにこの映画も忠実なのです。

この映画でもう一つ目立ったのは、夕日のシーンが多いこと。ヒロインの住むマンションはテラスに出ると空の広さが堪能できるのですが、夕焼けがバックになる場合が何度かある。その意味が私には必ずしも十分には分からないのですが、一つにはNYの名物である夕焼けを映像でも、ということもあるでしょうけど、この映画が全体としてロマンティックでコミカルな作りであるにもかかわらず、ヒーローとヒロインがそろそろ若いとは言い切れない年齢にさしかかっていることもあるのかな、などと思ってしまいました。最初のあたりでモーツァルトのクラリネット協奏曲の第2楽章が使われているのも、この音楽がまさに夕暮れのイメージであることを考えるなら、同じ効果を狙ったものかとも受け取れる。二人の恋は、何度も恋と別れを経験した男女の黄昏時の恋、なのかも知れません。
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