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お引越しのSQURのレビュー・感想・評価

お引越し(1993年製作の映画)
5.0
離婚状態となった父母の間で早期にアイデンティティの確立を求められる子供の姿を、子供の視点から映し出していく。主人公の女の子の演技がこれが初演技らしいのだけれど素晴らしく、全身で表現している。立ち姿だけで情感が伝わってくる。
初めは両親の不仲や別離ということの意味がよく分からないのだけれど、次第にその意味が腑に落ちていく。その過程で発生する少女の悲しみとも諦めとも怒りともつかない感情や心理状態が、情景描写や少女の演技を通して語らずして語られる。
映像として美しさを感じるカットも多く、特に突如瞬間的にリアリティラインが揺らぐ夕立のカットや、後半のお祭りでの橋の上と下での会話や、"火"にまつわるシーンはどれもこの上なく美しい。
この映画を日本の風土と切り離して語ることは困難で、お祭りや五山送り火、夕立などの夏でありながらも生命力の薄い、陰と陽の入り交じった文化・気候が主人公の心情にシンクロするとき、他の映画では決して経験しえない映画体験が生じる。
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