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お引越しのmareのレビュー・感想・評価

お引越し(1993年製作の映画)
4.0
幼少期に両親の別離を目の当たりにし、子自身も囚われの身にある己との決別に向かっていく。当たり前が突然目の前から消えることが子どもにとっての何よりの恐怖であり、ぐちゃぐちゃに整理できなくなった心象が反抗や甘えとなって発露する。窮地に陥ったとき、どんな行動を取り口からどんな言葉を発するか不安定になり、それもまた子ども特有の無軌道さとして捉えている。上り坂の先で突如発生する豪雨、宙ぶらりんな魂の旅のようにも思える暗闇の森の中での追想、極めつけは三途の川に形容できる海に映ったかつての家族の姿、子どもの妄想や葛藤をファンタジーとしてこれ以上ない形で表現しきっていて素晴らしい。幼少期の経験が未来を形作る礎になるが、年をとってしまえば忘れることが当たり前になってしまうのが人間の宿命。昔の思い出は片手で数えられるほどで十分だというセリフが響き、現在を生きる人間としてとても大きな勇気を受け取った。
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