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妖雲渦巻くのニューランドのレビュー・感想・評価

妖雲渦巻く(1923年製作の映画)
3.9
☑️『妖雲渦巻く』(3.9) 及び『インゲボルグ·ホルム』(3.7)▶️▶️

サイレントは様々な勢力·情念の対立関係も、トーキーの観念的に整理·再構成のスッキリした葛藤とはならず、図式はあってもより未分化な一体として伝わってくる。
『妖雲~』。ブラウニングは、十八番と云われる怪奇な内容·人間像に限らず、社会とどれだけ離反してるかでない、聖化·浄化されぬ、人間が共通して持つ己れだけのマグマのような力を感じさせる。中国上海ロケや山間村のロケセットは、高めからの視界突き進み移動も、メインの家らの背景上部に聳える堅牢な建物も見事に。上海のざわついたホテルの食堂と各部屋への人の動きと位置取り·90°等の角度取りの押さえかたも、競馬の枠とダイナミック移動力も、巧みには至らぬも誤魔化しなし。抗州に移ってのその地と人に惹き付けられ·変装を含めた様々な新鮮な反応を見せてく複数キャラから、そして閉山鉱山で働いてた村人らの立ち上がり·麻薬を栽培し武器で周囲を威圧する山賊ら·鎮圧に来る軍か警察の部隊らの入り乱れ·その中自己の願いを他者の活かしにスライドしてゆく人物らを捲き込み高める激しい戦闘·葛藤の留まりのなさ·カオス化。それらは観る側の覗き趣味·異郷接触感に手を差しのべる事なく、只存在し·内から白熱化·そのまま自然に絶対化してゆく。何の意味付けや権威化もなく、それ自体が遥か歴史以前のことでもあるように。
単なるパターン的、世慣れ疲れて出直しに失敗し表面逆行への一見悪女·出自に拘わらずピュア反応の娘、女の元相棒·鉱山施設の守衛·麻薬の売人元締め·犯罪摘発の密命を帯びた隠れ検察官、らが、恋や人との絡まりを通して控えめで本来の大小の犠牲的人物に変容してく形も見事に響くが、それ以上の単純な外形が燃え盛る。終盤の、多数の人物行き交うグループらの突きだし·翻り·入り雑じり·無化へ向かうが、狂暴な大火が包み·呑み込むを、真っ赤に染色し·中間字幕すら同色に浸す、まったく気休めの瞬間を抹消してしまった異常なのか真っ当さなのか、あらゆる線引きが存在しない世界の現出は、オリジナル指定通りなのか独善処理なのか、どうでもよくなってくるくらいに、直に観る側も動かしてくる。
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それよりかなり前の作、ショットの説明的挟みはあっても、組立ての力弱く只見慣れた光景が自然に眼前に無理なく流れてくだけ(画面の溶解劣化や締まりなさもあるが)のシェストレム初期の『インゲボルグ·ホルム』は、救貧院や生活支援局·捜索員だっけ、社会制度の限界·現実·批判も含みながら、夫の急死·残された店の切盛り失敗·子供らの里親への手離し·施設脱走し子への再会の旅·幼い子は最早里親だけの意識と失望、10数年後精神を病んだところへ長男が無理を押し会いにくるもどれだけ理解してるか不明·しかし抱き合う感触だけは自然に求め合う、という女の半生、不運と無力と閉ざされきってない何かを描く。
デクパージュ自体は説明しきれず、それ自体から滲み出るものがある。
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