プリオ

星を追う子どものプリオのレビュー・感想・評価

星を追う子ども(2011年製作の映画)
3.5
子供向けと思わせて、重めで難解な「死」をテーマにした映画だ。キャラの心情、セリフの意味や世界観の理解に苦しむ。だが、その分考察しがいがあるし、新海誠監督の違う一面を見ることができる。


○テーマ
生と死
この世とあの世  
人間と地底人 (死への執着の有無)
→死生観の違い
→価値観の違い  

人間:戦争、侵略、死への恐怖あり、マジョリティ、大国 
地底人:平和、死への恐怖なし、マイノリティ、村


○死への執着 
死者を悼むのは○ (死は生きることの一部)
自己と他者を憐れみ続ける✖︎   


○深すぎるセリフのオンパレード
・「祝福をあげるよ」ーシュン 
→生まれてきてくれたことを、全肯定する素敵なことば

・「私寂しかったんだ」 
寂しかったことに気づく過程→キャラの気づきを自然に描く(新海監督の手腕)
「すずめの戸締まり」のすずめ
「天気の子」の須加
 
・「幸せと悲しみが一緒にやってきて、私は一人きりじゃない」
→幸せも、悲しみも、生も死も、人生の一部であり、一人きりじゃない  

・「ただ君には生きていてほしい」ーシュン 
→死ぬことは生きることの一部であり、悲しいことではないが、君には生きていてほしいという思い

・「アガルタ世界では、現世での命のはかなさ、意味のもどかしさを知りすぎている。滅びゆくのでは?」ーシン
アガルタ世界の人々は達観してる。死を恐れず、受け入れる。戦争や侵略などしない→だから滅びゆく→地上世界のよさがあるのかもしれない

★喪失、悲しみがあるからこそ、祝福できる。喪失を悲しいことと認識しなければ、祝福もない。


○猫→シュンの分身 
「天気の子」では帆高の分身、
「すずめの戸締まり」では、すずめの一部、感覚的部分、子ども部分  


○ここではない何処かへ 
ラジオの歌を聴いてドキドキ→アガルタ 
「天気の子」→東京、お彼岸
「君の名は」→常に探してる、三葉


○ジブリテイスト 
ラピュタ、もののけ姫、ゲド戦記など既視感のオンパレード。オマージュなのか?パクリと捉えるのか?廃墟、ロボット兵、ムスカ、飛行石らしきものも登場。


○新海小道具 
タバコ→子育てからの逃避 
猫→神 
地下世界→あの世 
踏切 


○メタファーだらけの映画  
暗喩読みの難度が高い映画
抽象的なセリフが多く、分かりにくい
→見る側の読解力、思考力、教養にかかる 


<感想>
大事な人を亡くしたり、家族が亡くなったり、自分の命も「死」は私たちの人生について回る。つい生きてることが当たり前で忘れがちの「死」について考えるきっかけをくれる作品になっている。そういう意味では子供だけじゃなく、大人も見る価値がある映画だ。逆に子供には難しいような気もする。

自分の存在意義、無意識が意識化にのぼるまでを一緒に旅をする。そういう意味ではロードムービーでもある「すずめの戸締まり」と似ている。

「君の名は」以降は、作家性を殺して、国民的アニメータになってしまったという意見もあるが、個人的にはそんなことはない気がする。抽象的過ぎるセリフや、作り込んだ世界観、見事に完成されたキャラ配置によるストーリーに、分かりやすさ(説明セリフやシーン)を取り入れただけだと思う。

でも、確かに、新海監督自身のツボより、大衆の感動するツボが増えたのは確か。
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