子供向けと思わせて、重めで難解な「死」をテーマにした映画だ。キャラの心情、セリフの意味や世界観の理解に苦しむ。だが、その分考察しがいがあるし、新海誠監督の違う一面を見ることができる。
○テーマ
生と死
この世とあの世
人間と地底人 (死への執着の有無)
→死生観の違い
→価値観の違い
人間:戦争、侵略、死への恐怖あり、マジョリティ、大国
地底人:平和、死への恐怖なし、マイノリティ、村
○死への執着
死者を悼むのは○ (死は生きることの一部)
自己と他者を憐れみ続ける✖︎
○深すぎるセリフのオンパレード
・「祝福をあげるよ」ーシュン
→生まれてきてくれたことを、全肯定する素敵なことば
・「私寂しかったんだ」
寂しかったことに気づく過程→キャラの気づきを自然に描く(新海監督の手腕)
「すずめの戸締まり」のすずめ
「天気の子」の須加
・「幸せと悲しみが一緒にやってきて、私は一人きりじゃない」
→幸せも、悲しみも、生も死も、人生の一部であり、一人きりじゃない
・「ただ君には生きていてほしい」ーシュン
→死ぬことは生きることの一部であり、悲しいことではないが、君には生きていてほしいという思い
・「アガルタ世界では、現世での命のはかなさ、意味のもどかしさを知りすぎている。滅びゆくのでは?」ーシン
アガルタ世界の人々は達観してる。死を恐れず、受け入れる。戦争や侵略などしない→だから滅びゆく→地上世界のよさがあるのかもしれない
★喪失、悲しみがあるからこそ、祝福できる。喪失を悲しいことと認識しなければ、祝福もない。
○猫→シュンの分身
「天気の子」では帆高の分身、
「すずめの戸締まり」では、すずめの一部、感覚的部分、子ども部分
○ここではない何処かへ
ラジオの歌を聴いてドキドキ→アガルタ
「天気の子」→東京、お彼岸
「君の名は」→常に探してる、三葉
○ジブリテイスト
ラピュタ、もののけ姫、ゲド戦記など既視感のオンパレード。オマージュなのか?パクリと捉えるのか?廃墟、ロボット兵、ムスカ、飛行石らしきものも登場。
○新海小道具
タバコ→子育てからの逃避
猫→神
地下世界→あの世
踏切
○メタファーだらけの映画
暗喩読みの難度が高い映画
抽象的なセリフが多く、分かりにくい
→見る側の読解力、思考力、教養にかかる
<感想>
大事な人を亡くしたり、家族が亡くなったり、自分の命も「死」は私たちの人生について回る。つい生きてることが当たり前で忘れがちの「死」について考えるきっかけをくれる作品になっている。そういう意味では子供だけじゃなく、大人も見る価値がある映画だ。逆に子供には難しいような気もする。
自分の存在意義、無意識が意識化にのぼるまでを一緒に旅をする。そういう意味ではロードムービーでもある「すずめの戸締まり」と似ている。
「君の名は」以降は、作家性を殺して、国民的アニメータになってしまったという意見もあるが、個人的にはそんなことはない気がする。抽象的過ぎるセリフや、作り込んだ世界観、見事に完成されたキャラ配置によるストーリーに、分かりやすさ(説明セリフやシーン)を取り入れただけだと思う。
でも、確かに、新海監督自身のツボより、大衆の感動するツボが増えたのは確か。