アーリー

星を追う子どものアーリーのレビュー・感想・評価

星を追う子ども(2011年製作の映画)
3.5
2023.5.9

これまでの作品とは毛色が違い、ファンタジーものになっている。また、ジブリを意識して作られたらしい。

絵のレベルが格段に上がったように思う。人物の線が丸くて、動きに違和感がない。その代わりにアニメっぽいものの書き方だなと思うところもある。空や風景や街並みの絵はこれまで写実的やったけど、今作はアニメっぽい。要所要所にジブリっぽさが漂う。新海誠って言われなかったら気づかない。
 新海誠作品あるあるの暗くて悩んでてポエムに浸ってるようなキャラが出てこないのも特徴かも。明らかに今までと作品の作り方が違う。いわゆるアニメっぽさをあえて意識して作ったのが今作。彼の作品の良いところや雰囲気がないのが少し残念。

テーマは、死を抱えて生きる意味かな。大昔にこの世にいた神々ケツァルトが、人間の争いに辟易していくつかの氏族と共に地下に潜った。その世界がアガルタ。主人公あすなは、奥さんを亡くした過去をもつ森崎竜司と共にアガルタを旅する。そこに原住民であるシュウが絡み合って、人の死とは何か、生きる意味はなんなのかをさがしていく。竜司は奥さん、そしてあすなとシュウはシンとそれぞれ大切な人を亡くしており、あすなに関しては幼い頃に亡くなった父親のことも心に残っているようにみえる。

竜司が影の主人公とも言えると思う。最愛の奥さんを亡くした後、アガルタの伝説に固執するようになる。目的は奥さんを生き返らせること。終盤ではその奥さんを生き返らせるために生贄が必要だと言われ、なんの躊躇いもなくあすなを生贄に選ぶ。奥さんが生き返るなら、他の人の生き死になど関係ない。人の業って感じ。結局シュウの頑張りであすなは意識を取り戻し、竜司の奥さんの魂は現世から離れることになるけど、この辺の描き方が不完全燃焼。あっさり終わってしまう。竜司が何かに気づいて、自ら決着をつけたわけではないから、なんかスッキリしない。あすなとシュウもシンの死に対してなにか答えを見つけられたようにもみえなかった。人は死ぬことを神にさだめられた生き物だから、それを受け入れるしかないという普通の終わり方になってるのがなんか勿体無い。そんなことは誰でもわかってると思うけどな。その上でそれを納得、理解出来るような何かが欲しかった。

血の描写が多い。竜司の奥さんとか結構不運でグロい死に方しちゃってるような描写。なんの意図があるんやろう。あと人間界とアガルタの関係性がほとんどなかったのも勿体無い。普通に混血の子どもが出てくるし、なんやったらあすなもその可能性があるような匂わせされてたけど、物語に全く絡んでこない。面白そうな話になりそうやのに違和感。

新海誠感がなさすぎて物足りない。あえて自分の作りから外れて、日本のアニメっぽさを作った姿勢は良いけど、ちょっと失敗しちゃったかなという感じ。地下のイメージとか、神々の要素は「すずめの戸締り」に受け継がれてて、完全に昇華出来てるように思うから、それは良かったかな。
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