だい

独裁者のだいのレビュー・感想・評価

独裁者(1940年製作の映画)
2.4
公開が1940年10月だから、
公開当時にはもうフランスがナチス・ドイツに降伏して、
いよいよアメリカにもナチスの脅威が実感として迫ってきた頃だと思うのだけど、
本作のメインモチーフとなっているのが1938年のオーストリア併合だたから、
チャップリン本人はもっと前からナチスの台頭に危機感を感じていたのだろうな、と。

当時の空気感はわからないけど、
ヒッチコックが「海外特派員」でヨーロッパの政治的緊張を描いたのも1940年で、
ラングが「マン・ハント」でヒトラー暗殺を描いたのが1941年上半期だから、
やはりこの時期にはもうナチスの実情ってのがアメリカにもそうとう詳しく伝わってのかね。

ネットもなく、
情報の伝達も遅く、量的にも限りがある時代で、
一介の大臣であるゲッベルスやゲーリングのことまでアイロニーの対象とする程度には情報が伝わっていたってのは普通にすごい。


ナチス首脳部の俗物感を嘲笑し、
ユダヤ人の尊厳を賞賛すること。

そんなメッセージを徹底しすぎたが故に、
コメディ映画としては中途半端になってしまったし、

コメディ映画としての体裁を崩さなかったことで、
プロパガンダ映画としても中途半端になってしまった感は、ある。


中途半端とか書くと、
何様じゃい!
って怒る人が一定数いると思うんだけど、
でもさ、
最後にあのシリアスな演説を持ってきたのは、
コメディ要素では、あの演説の重いテーマを描けないと判断したから持ってこざるを得なかったんだと思うんだよなあ。

まあ、揶揄して揶揄して最後にシリアス。
っていう構成も別にアリだとは思うんだけど、
「死刑執行人もまた死す」みたいな直接的な、迫害される側からの切迫した描き方と比べると響き方が弱いし、

コメディとしても、
ナチスへの揶揄がほぼ全てになっちゃってるから、
どうしてもそこに政治観の匂いが透けちゃってて、
何も考えずに笑えるようなものになってない。
普段のチャップリンのような脳天気な笑いがあまり無いんだよなあ。
序盤の手榴弾が袖に入るやつだけは爆笑したけど!


この時代に、このテーマで作ったということがすごい作品。
本当に、すごい作品。

それを求めてるかどうかの個々人の差。
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