Siesta

独裁者のSiestaのネタバレレビュー・内容・結末

独裁者(1940年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

これを1940年、まさにヒトラーによる独裁が行われていた最中に作られたという映画史上最大クラスの偉業 リアルタイムでここまでヒトラーを徹底的に小馬鹿にできる神経がえげつない
まず冒頭の文言から、これはあくまでもかつてあった話ですよ、という入り方が凄い それは希望とも取れるし、信じられないようなことが現実に起こっているということを皮肉っているとも取れる 戦場の雰囲気は、時代的にもまさしく戦争がリアルにあった時代ということで本物の臨場感 これは最近の作品でも出せない空気感があるし、戦場でコメディ演出ができるのは、まさに戦争がリアルとして起こっている時代だからこそ 笑いに変えることで、その時代の人々に対する安らぎとして成立し得るのはこの時代だからこそ 後年の戦争映画は、基本的にはリアル路線で、悲劇的にしか描くことが難しいわけで
ヒンケルの演説の茶化し方は、今の時代でもヒヤヒヤするほど 今だったら、プーチンに対してやるようなもの というか、それ以上 オーバーで意味不明、ナレーションを加えるというあたり 戦場の不発弾の流れはビートたけしの火薬田ドン、ヒンケルの意味不明でオーバーな演説はタモリのハナモゲラ語を感じた 他の作品では本人も公言している通り、ドリフ、特に志村けんのコントに通じるものを感じたし、チャップリンの笑いって、めちゃくちゃ日本のお笑いに影響与えているような気がしてくる
床屋の男、ハンナと突撃隊の喧嘩は、ハンナのフライパンで頭殴るのが気持ち良い チャップリンのコミカルな動きは言わずもがな チャップリン作品も若い女性に好かれる展開がほとんどだけど、個人的にヒッチコックと違って嫌らしさがなくて、それにチャップリンのキャラクターにめちゃくちゃ魅力があるから納得してしまうというか  ヒンケルの忙しなく動いて崇拝される姿と、実際はブレーンの助言を得ながら敵国の電話にも出ない小心者としての姿 彼をもし絶対的な頭のキレるキャラクターとして描いてしまうと、それもまたヒトラーの凄さを称えることに加担してしまうわけでもあって だからこそ、こんな情けない人物として描くことには大きな意味がある 地球儀を回して、世界を手玉に取ろうしたところで割れてしまうという皮肉も見事 敵国との幼稚な競り合いも皮肉たっぷり 椅子の高さを異様に気にしたり、武力を大袈裟に見せつけたり 個人的には、マスタードでのたうち回る2人が滑稽で好き
強制収容所の脱出、カモ狩りをしていたヒンケルとのまさかのすれ違いコントっぷり ヒンケルはふさわしい場所に収容されるという皮肉 なんか人違いをしても写真が手軽ではなかった時代だしなとか思ってしまう そして、一言一句全てが名言の演説 民主主義、自由、希望と保障 最後にハンナに対して言葉をかけるのもチャップリン的なロマンチシズムを感じる 淀川長治さんの本で、ハンナというのは、チャップリンの実母の名前らしく、最後の問いかけは、母に対しても向けられているのではないかとのこと
個人的には、今作と「博士の異常な愛情」がコメディ映画としてトップ2かな どちらもナチスをブラックコメディとして仕立てた作品だけど、やっぱり良くも悪くも、独裁者の“アイコン”としてのヒトラーって、未来永劫残っていくんだろうな
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