イホウジン

独裁者のイホウジンのレビュー・感想・評価

独裁者(1940年製作の映画)
3.7
公開から数年後の未来を考えると、笑うに笑えない。

映画の魅力の一つに、登場人物たちのその後を空想するということがあると思うが、今作におけるそれは非常に厳しいものがある。理由は当然ホロコーストだ。確かに映画の中でも秘密警察の暴力やユダヤ迫害の描写もあるし収容所も描かれるが、それらは近い未来の大量虐殺は想定されていないものである。現実世界の圧倒的な暴力を前にエンターテインメントが無力になってしまった瞬間であろう。そういう目で本作を観てしまうと全てが机上の茶番劇にしか思えなくなってしまう。これに関しては映画が悪いのではなく、社会が悪い。
とはいえ、この段階の映画であってもやはり全体はシリアスな空気に包まれている。喜劇という形こそとっているが、笑い一辺倒なパートはごく一部だし暴力も生々しい。それだけ当時もまた緊迫した空気だったのだろう。

言わずもがな最後の演説は見事だし、ここだけ観れば普遍性を感じられる。それまでの床屋のヘンテコさから一転力強いスピーチを成功させるが、あれはきっとチャップリンの心の叫びだったのだろう。イデオロギーに囚われない真の平和をあの演説の中に垣間見た。
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