シズヲ

俺は善人だのシズヲのレビュー・感想・評価

俺は善人だ(1935年製作の映画)
4.0
しがないサラリーマンが偶然ギャングと瓜二つだったせいで騒動に巻き込まれる!巨匠ジョン・フォード監督が唯一メガホンを撮ったギャング映画(?)。“ギャングそっくりの民間人”という役どころをエドワード・G・ロビンソンが一人二役で演じている時点でもう出落ちだし(サラリーマンもギャングも好演だ)、一種のパロディ性めいたものを感じてしまう。どちらかといえば屋内の映画なのでフォード的な撮影の奥行きはあまり見られないけど、内容が愉快なので十分楽しい。

序盤から小気味良い編集のテンポでギャグが繰り広げられるので楽しいし、偶々ギャングとそっくりだったせいで主人公があれよあれよと冤罪を掛けられてしまう流れが味わい深い。主人公ジョーンズを中心にした周囲の登場人物らがドタバタと動き回る姿はスラップスティック的で憎めない。最初は「僕はジョーンズです……」と不憫な姿を見せていた主人公が酒を飲まされて煽てられた途端、ギャング映画のロビンソンめいたふてぶてしさを見せるので笑う。ジーン・アーサー演じるヒロインの人物像も豪胆で見ていて清々しい(ハワード・ホークス映画の女性像めいた気持ちの良さ)。懸賞金目当てのおっちゃんを中心に脇役の挙動もいちいち愉快だ。

基本的にコメディ的ではあるものの、ギャングのマニオンが本格登場してからはスリリングな空気も見受けられるようになるのが印象深い。“散々マニオンを馬鹿にしてから部屋のランプを付けたらマニオンが待ち受けてた”場面などはフフってなるが、以後の拳銃を挟んだベッドでの駆け引きや裏切り者殺しの下りなどには一定の緊張感がある。裏切り者と二人きりで物陰に向かう→次のカットではマニオンだけが手を拭きながら戻ってくるという流れ、自主規制の厳しかった時代ゆえの“暴力描写”が伺えて面白い。

そんな訳でギャング映画的な描写が幾らか見えつつも、あくまでコメディ的な滑稽さを貫いているのが微笑ましい。ジョーンズとマニオンの入れ替わりギミックが終盤の逆転に繋がったり、“ストレスが限界になると失神する”というジョーンズの描写が巡り巡ってオチになったりなど、要所要所でのカタルシスも好き。
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