たく

奇蹟は一度しか起こらないのたくのレビュー・感想・評価

奇蹟は一度しか起こらない(1950年製作の映画)
3.5
一世一代の恋路を戦争によって踏み躙られる男女を描くイヴ・アレグレ監督1950年作品。ジャン・マレーとアリダ・ヴァリという豪華な組み合わせで、特にアリダ・ヴァリの初心な乙女から世間を知った大人の女性への変化が見事。イタリア人の彼女が流暢なフランス語を話すのが印象的で、他にも「かくも長き不在」などフランス映画に数本出演しており、イタリア映画にも名作が多くて不思議な魅力がある大好きな役者さん。愛する男女が戦争に引き裂かれるというのは、「シェルブールの雨傘」「ひまわり」など良く描かれる普遍的なプロット。

時は1939年のパリ。夏のバカンスを迎えた医学生のジェロームが、ずっと気になってたイタリア人女性のクラウディアに声をかけ、実は彼女もジェロームのことを好きだったというまさかの両想い。ここでプレイボーイのジェロームと、色恋沙汰に全く縁がない純朴そのもののクラウディアが対比され、ジェロームの主導によってあっという間に恋に落ちる二人がまぶしい。二人が恋に耽ってる間に世界では第二次世界大戦の足音が迫っており、ドイツのポーランド侵攻と同時にジェロームが徴兵され、出会ったばかりのクラウディアと引き裂かれるのが切ない。

前線に送られたジェロームがいつのまにか脱走してちゃっかり帰国してるのがいささか唐突で、ここは描き方が雑に感じた。11年ぶりに再会したクラウディアがすっかり大人の女性になってて、ジェロームが彼女のキスが上手くなってることに狼狽するのが時の残酷さを表してた。タイトルの通り、あんな奇跡のような大恋愛は人生一度きりということで、別れのバスに間に合わなかったクラウディアがジェロームと腕を組んでフェイドアウトするのが、結局よりを戻すのかどうか曖昧な幕切れ。でもどっちにしても、かつての燃えるような愛はもう二度と戻ってはこない。もし戦争が二人を引き裂かずに幸せなままだったとしたら、時の経過により大恋愛の熱こそ冷めてしまうと思うけど、また違った幸せが訪れたに違いない。
たく

たく