ひろ

乱のひろのレビュー・感想・評価

(1985年製作の映画)
3.6
黒澤明監督によって製作された1985年の日本・フランス合作映画

黒澤明、最後の時代劇。シェイクスピアの「リア王」を下地に、毛利元就の「三本の矢」の逸話を盛り込んだ力作。前作の「影武者」も、この映画のためのリハーサルだったのだから、監督がこの映画にかけた想いは計り知れない。黒澤明の集大成であり、監督曰く、「人類への遺言」である。

「影武者」でもそうだったけど、合戦のシーンは同じシーンの繰り返しで単調だ。退屈と感じるかもしれないが、ここにもメッセージを感じる。戦争を誰よりも嫌っていた監督だから、戦を劇的に描かなかったのだろう。単調な殺戮の繰り返しこそが戦争なんだ。だからドラマチックなわけがない。そう感じた。

悲劇である「リア王」を下地にしているだけに、もちろん悲劇になっている。血縁による骨肉の争い。親も子もない。恨みの連鎖。争いを選んだものに幸せなど訪れない。必ず報いが来るんだというメッセージ。監督の反戦の気持ちが、内容からも伝わってきた。

秀虎を演じた仲代達矢。黒澤映画と言ったら、三船敏郎や志村喬を思い浮かべる人が多いだろうけど、仲代達矢も忘れちゃいけない。「用心棒」の洒落ものヤクザなど、忘れられない個性を放った名優だ。この作品でも気が狂った秀虎を熱演。

長男の太郎を演じたのは、『黒澤明最後の愛弟子』と言われる寺尾聰。次男の次郎を根津甚八。三男の三郎は、「影武者」の織田信長で注目された隆大介。三兄弟は物語に深く関わっているので、この3人の俳優の演技が作品を支えている。

女狐のような楓の方を原田美枝子が怪演。不幸過ぎる末の方を、いまではクイズ番組でお馴染みの宮崎美子が演じている。さらに、道化のような異質なキャラクターである狂阿弥を、ピーターが演じている。いまではすっかりオネエだが、役者として開花した頃のピーターはすごい。

カラー作品になってからの色彩感覚も素晴らしい。アカデミー衣裳デザイン賞を受賞した華やかな衣裳も見所だ。姫路城や熊本城などで撮影しているのも、すごい。アカデミー賞名誉賞を受賞した時に、ジョージ・ルーカスとスピルバーグが、「世界最高の映画監督」と言ったのはお世辞なんかじゃない。それは黒澤映画を観れば明らかだ。
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