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文学賞殺人事件 大いなる助走のpikaのレビュー・感想・評価

4.5
今頃筒井康隆を読み始めドハマリし、本作の原作を含む長編11冊短編集10冊関連本2冊読んでまだまだ沼へ突っ走って楽しんでる最中、休憩がてら映画化作品でもと見てみた。

エロありドタバタありギャグ満載の上しんみりさせつつ風刺も盛り込んでと、筒井康隆の世界観を見事に映画化しててぶったまげた。原作を踏まえた上で映画でしかできないこと、超えてるところもあったりして凄かった。面白かった。
メタフィクションなのか劇内劇なのか想像なのか現実なのかあっちへこっちへ揺れまくる展開が最高。主役の市谷が初投稿した小説が「最後の喫煙者」ってのはファンサービスではなく映画オリジナル展開へのネタ振りだったのかと同時に気付かされ、筒井康隆の作品だけでなく作風をも盛り込んで活かしてみせるアレンジと怒涛の演出に痺れた。そしてあのテンションが二転するオチ!傑作!

楽しみにしていた筒井康隆のカメオ出演はカメオレベルを超えてて楽しかった。さすが作者なだけあって台詞のリズムやテンポが完璧。なるほど、あの独特な文体はこうやって言葉に発するのかと絶妙な抑揚を付けて繰り広げられる半端ない長広舌に感心。マジでグラス食べてたのワロタ。チラッチラッとテーブル見てたけど叩くだけで割りはしなかった笑。
自虐ネタを面白さへと昇華してしまう、自己批評性と自信とを織り交ぜた筒井康隆ならではの自作酷評展開(市谷のメイン前後の作品の題名が筒井作品と同じなのは原作にはない)もさすが笑。

原作をきれいになぞっていて「あのエピソードはあるのかな?」と思った面白エピソードもちゃんと入れてる。泡吹かせたり菓子を踏みつけたり死ぬ前に歌を歌わせたり細かいネタも。
候補通知文書の回し読みを画で挟みながら山城新伍に長広舌をふるわせるシーンは、原作の別の場面を繋ぎ合わせ、画面と音で重要な説明を同時展開させていてアレンジが上手い!
映像で見たかった総土下座シーン!俯瞰ショットで映画映えしてる。
唯一の癒やしである玉枝さん。。完全に蛇足だから仕方がないけど玉枝さんの狂った旦那も見たかった。あと東京へ来たあと「これも小説に書けるから」の台詞は入れて欲しかった。玉枝さん。。
雨の中での佐藤浩市の狂気の表情がめちゃくちゃ良かった。あらゆる心理状態になるキャラクターを見事に演じきってて凄かった。

原作を先に読んでも映画を先に見ても、どちらかだけでも両方見ても面白いわりと稀有な例かもしれない。
筒井康隆のインタビューを読むと、連載開始時は担当者にすらオチの展開は伏せたまま、というか自身もオチは決めないまま始めていたようで、連載時はあのオチが話題となりベストセラーに一役買っているであろうから、映画化する時点で小説発表時の衝撃を追体験できないし、むしろ題名からしてクライマックスあたりで起こる出来事は分かっている話だからそれを目玉にできない、まんまなぞって映画化したら単に映像化になる、ってところで映画だからこそ、後発だからこそ加えているアレンジが上手い。映画で見る意味があるし、原作を超えつつ原作通りだし、整理できないんだけど、凄いことやってるってのは分かった。面白かった。
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