ボブおじさん

噂の二人のボブおじさんのレビュー・感想・評価

噂の二人(1961年製作の映画)
3.8
名匠ウィリアム・ワイラー監督が、かつて「この三人」(1936)として映画化したリリアン・ヘルマンの戯曲「子供の時間」を再映画化した作品。

主演は、人気絶頂期のオードリー・ヘプバーン。あの「ティファニーで朝食を」と同年の公開である。彼女演じるヒロインと友情を深めたばかりに悲劇を迎える親友の役で、私が大好きなシャリー・マクレーンが共演している😊

ショッキングな物語を格調高く演出したワイラーのシャープな手腕と2大女優の個性と実力のぶつかり合いが見どころとのことだったが、最初に見た時は期待したより地味な作品だと感じた。

学生時代からの友人カレンとマーサは、今や寄宿制学校の共同経営者に。仕事が順調なカレンは、地方の有力者の甥で2年前に婚約した医師ジョーとの結婚を真剣に考えだしていた。

一方、学校嫌いである女生徒が、カレンとマーサが愛しあっていると噂したせいで、カレンとマーサの周囲を含む町の人々の間であらぬ誤解が広がってしまい、カレンはジョーとの婚約を解消せざるをえなくなる。

〝レズビアン〟つまり性的マイノリティに対しての偏見が、招く悲劇を描いているのだが、初めて見た時は、当時の時代背景を十分には理解していなかった。

この映画が公開された1961年当時は、今とは比べ物にならない程、同性愛に対しての偏見が強かった時代だ。

前年に公開された、ルネ・クレマン監督の名作「太陽がいっぱい」は、明らかに主人公のホモセクシャルを描いているが、当時の観客には、わからない様にオブラートに包んだ表現になっている。

リメイクされた「リプリー」と比べるとその違いは一目瞭然である。

ちなみに「太陽がいっぱい」の原作者パトリシア・ハイスミスは、ヒッチコックの「見知らぬ乗客」の原作者としても有名だが、2つの作品の間の1952年に「The Price of Solt」という半自伝的恋愛小説をクレア・モーガンの名で書いている。

名前を変えたのは、彼女がレズビアン小説家とのレッテルを貼られることを恐れたからだろう。同性愛は、当時はモラルに反する精神的病として〝治療〟の対象と考えられていた。

彼女がこの作品を「キャロル」と改題して自分の名前に改めたのは1990年。発表してから実に40年近くも経ってからのことだ。(この辺りの経緯は映画「キャロル」でレビューしている)

そうした時代背景を踏まえて、この映画を見ると噂を流した女生徒が、単なる悪戯を超えて、いかに非人道的なことをしたのかが理解できる。

映画は、時代を写す鏡だ。1936年の前作では描けなかったテーマに鋭く斬り込んだと言われている本作でも、今の時代の物差しで見ると、さまざまな違和感を感じる。

当時は噂を流した女生徒が批判の対象だろうが、今なら偏見を持っていた世間そのものが、批判の対象になるのだろう。

今、我々が当たり前に受け入れられている価値観が、後の世から見れば、違和感の塊でしかないということは、十分に考えられる。

そんな当たり前のことを思い出させてくれる映画でもあった。



〈余談ですが〉
同性愛に対する受け取り方は、国や時代によって大きく異なる。日本は世界的に見ると性的マイノリティの権利が認められていない国だとの指摘も多い。

確かに同性愛を描いた作品も海外と比べて圧倒的に少ない。史実の中では、権力者たちの同性愛嗜好は数多く明らかになっているのに、描かれた作品が少ないのは、作り手の問題か?それとも受け入れ側の問題か?

娯楽映画は、その時代の観客が求めるものを映画化する。今までの観客は、例えば戦国武将に〝いわゆる〟男らしさやリーダーシップという幻想を求めたのだろう。実際は、そんな奴らばかりじゃないだろうけど😅

同性愛をエンタメとして昇華させるほど、日本はまだ成熟していないという事か?
差し当たり「戦国自衛隊」を誰か再リメイクしてくれないか😊