オーウェン

クルージングのオーウェンのレビュー・感想・評価

クルージング(1980年製作の映画)
4.5
この「クルージング」は、「フレンチ・コネクション」、「エクソシスト」など、1970年代の前半に絶頂期を迎えた、ウィリアム・フリードキン監督が、主演にアル・パチーノを迎えて撮った問題作だ。

アル・パチーノ扮するニューヨーク市警の青年警察官が、特命を受けて、クリストファー街に潜入する。
猟奇殺人事件が連続して発生し、ゲイの世界に犯人が潜むとみなされたからだ。

このクリスファー街は、ゲイたちがたむろする街。
ゲイと言っても、我々が想像する、なよなよとした存在ではない。
ここでは、黒いレザーに、筋骨隆々の身を包み、"男"を強調するハード・ゲイの世界だ。

全編オールロケで捉えたゲイの実態だけに、異様なードが画面いっぱいに漲っている。

ウィリアム・フリードキン監督は、「人々の知らない事実を描くのが目的だった」と語っていたように、こうした世界に全く縁のない我々には、かなりの衝撃だ。

しかし、私がこの映画に一番興味を感じたのは、ごく普通の生活をしていたアル・パチーノ扮する主人公の警察官が、潜入生活を続けるうちに、体内に潜む自己の異常に気付くところだ。

彼はそのたびに、恋人の体にのめり込むのだが、人間というこの複雑な存在を、性風俗という視点から残酷に見据える面白さがある。

やがて、犯人は捕まるのだが、もう一つ新たな殺人が起きる。
その犯人が、アル・パチーノであったかどうか。
観る者の判断に任されるのだけれども、私は、はっきりとアル・パチーノ犯人説をとる。

恋人の部屋に帰って、じっと鏡を見る彼。
彼の脱いだゲイのシンボル=革ジャンパーを肌に当てる彼女。

このラストの凄まじさは、肌が粟立つ。
このラストにこそ、人間そのものが持つ二重性の凄さが、ギラギラと語られていて、だからこそ、アル・パチーノが、最後の犯人でなければならないのだ。

ハード・ゲイの増加は、"男"の強調、強さの誇示がポイントのようだ。
ならば、強いアメリカへの回帰願望すら、抱え込んでいるのかも知れない。
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