なべ

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊のなべのレビュー・感想・評価

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊(1995年製作の映画)
5.0
 実は押井守とは肌が合わない。演者が自己陶酔してて恥ずかしいとでもというのかな。登場人物がやたら「ぶってる」と感じるのだ。特に実写作品に顕著で、ケルベロスや立喰師列伝などは恥ずかしくて最後まで見られなかった。アヴァロンのカッコつけ演技もカッコよさより恥ずかし味が勝った。アニメ作品だと幾分恥ずかしさは軽減されるのだが、それでもやはりセリフの臭みは所々で気になる。そんなに嫌なら見なきゃいいんだけど、気になるんだよなあ。
 そんな愛憎半ばする押井作品の中にあってこれは好き!と胸を張って言えるものがある。攻殻機動隊はそのひとつ。年に2回は再生してるはず。今回IMAXで4K上映されると知り、池袋グランドシネマサンシャインに行ってきた。思ってる以上に人気があって、真ん中の席を取るのに苦労したわ。そんなにみんな好きか!

 さすがにIMAXほどの大画面になるとボケ感が気になったが、手描きアニメの頂点といえる作画クオリティを視界いっぱいに味わえるのは格別。もちろん川井憲次によるブルガリアンヴォイスのような民謡のような劇伴も割増で神々しかったし、小倉宏昌の背景の緻密さに改めて感動できたのも新たな収穫だった。

 やっぱり話がおもしろいんだよなあ。公安6課と9課の攻防で明らかになる「人形使い」を巡る陰謀は極上のミステリーだし、フル義体化した少佐と自発的に意志を持ったAIの、どこまでが生命でどこからがそうでないのかという境界の曖昧さの描き方が絶妙。融合という人の進化のあり様を具体的に見せたという点で本作は2001年宇宙の旅を凌いでいるのかも。
 先日観たビデオドロームもそうだけど、この頃のサイバーパンク作品はやっと時代の方が追いついて、とてもわかりやすくなってる。昔観てわけがわからんと思った人は今が再鑑賞のチャンスかも。

 冒頭の外交官暗殺シークエンスで、風にそよぐ前髪や脳内で交わされる9課の連中との会話のサウンドデザイン(こもり具合)がいいんだよなあ。直後の「ひと波乱」を予感させる静かな始まりにゾクゾクする。「ノイズが多いのは生理中だから」ってそんな理屈は聞いたこともないのに、妙に納得してしまうリアル感。なんか説得力あるよね。

 終盤の朽ちた博物館での多脚戦車との戦闘シーンの美しさよ。進化樹形図に着弾する軌跡のうねり具合といい、少佐の盛り上がる背中の筋肉と腕のちぎれ方といい、装甲の硬さと肉体の柔らかさの対比など、見事過ぎて息をするのも忘れる。ああ、いまぼくは手描きアニメの極みを目撃しているのだなあと感動する。
 だが最も印象的なのはゴミ収集車の男のエピソードなんだよな。捜査の撹乱のために利用された哀れな男。別れた妻も娘も存在しない偽りの記憶だったというカラクリがクソ悲しい。男のメンタルを思うと悲しいどころか底なしの絶望なのだが。本筋からは離れているがとても強烈な話で、全体のトーンを決定づける火種のような力強さがある。

 最後に訪れる夜のエギゾーストノイズと「さてどこへ行こうかしら。ネットは広大だわ」のセリフ。上質なアニメは余韻の広がり方も上質だ。
 そして暗転、からの謡。
「吾が舞へば 麗女酔ひにけり」
ああ、ここで毎回鳥肌が立つ。
なべ

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