びこえもん

絞死刑のびこえもんのレビュー・感想・評価

絞死刑(1968年製作の映画)
3.8
はじめての大島渚監督作品。ほぼ前情報なしで観たので、お堅い社会派な感じを想像してたところかなりコメディ調だったのでまずびっくり。しかしながら在日朝鮮人や女性に対する悪意なき蔑視(それが当然だろというかのような差別的見方)がそこかしこから滲み出ていて、かつ死刑制度それ自体の是非を問う問答を通し、ああ面白かったでは済ませない教唆性があります。加えて、とにもかくにも日章旗をちらつかせるあたりにも在日朝鮮人という存在と合わせて強いメッセージ性あり。

これは深読みかもしれませんが、作中では「韓国」「祖国の南半」という言及のされ方がされていますが、Rという朝鮮名はむしろ北朝鮮っぽいイニシャルのように思います(※)。これは戦時中まではひとつであった朝鮮という地域、そこから日本に移り住んで今や祖国は南北分断、戦時中からの朝鮮籍者もいれば大韓民国籍を取得した者もいる、しかし後者の場合、朝鮮北部(敢えてそう言う)の者でも日本が国家と認めるのは大韓民国だけだから朝鮮民主主義人民共和国籍には移行しにくく、結果として「韓国籍」になる……みたいなこともあったかもしれません。事実途中でたぶん金日成将軍を讃えているような歌(『キムイルソンチャングン』だけ聞き取れた)が流れるあたりRと北朝鮮は決して無関係ではないと思うのですが、こうした概念・民族としての「朝鮮人」と大韓民国政府に法的に帰属する「韓国人」の複雑な事情をも内包した意図がRの一字には込められているのかもしれない……と思いながら観てました。

(※)例えば中国語や日本語では「リ」と読まれる「李」が韓国では「イ」であったり、冷麺のことを「ネンミョン」と読んだりと、本来的に韓国語は語頭にR/Lの音があまり立たないようになっている(頭音法則)という特徴があるのですが、北にはそれが原則ないので、Rがイニシャルだと北朝鮮っぽいなという印象があります。韓国の人にも「リ」さんとか「リュ」さんとかがいるようなので必ずというわけでもないですが……専門家じゃないので、間違ってたらごめんなさい。