らんらん

トータル・バラライカ・ショーのらんらんのレビュー・感想・評価

5.0
アキ・カウリスマキ、1994年。54分、ドキュメンタリー。

レニングラード・カウボーイズのふざけたルックスと自由で可笑しいパフォーマンス。
ロシアの赤軍合唱団「アレクサンドロフ・アンサンブル」の整然とし重厚な佇まい。

軍服つながりではあるけれど、異なる意味でイカツイ見た目の両者によるジョイント・コンサート。舞台の端にはレーニンの胸像が小さな赤い車に乗せられている。

コメディ映画のワンシーンかと思ってしまうくらいそぐわない両者だが、歌と演奏とダンスのパフォーマンスは双方流石で、観客は旗を振って大盛り上がり。全ての曲をお互い全力ノリノリで演奏するから、見入って聴き入ってあっという間だ。冒頭の調印式以外は、演奏シーンのみが繋いである。

MVにもなっている「悲しき天使」ではボーカリスト同士が肩を組みデュエットする。
楽団の大合奏に、周りではカウボーイズのメンバーが(演奏しながら)ぴょんぴょん跳ねている。ペンギンみたい(笑)MVの女店主も登場する。

この曲は旧ソ連では、1929年に「反革命的」という理由で発禁になったと言う。
亡命ロシア人によって西側諸国で広まり、1968年のホプキン(イギリス)のカバー曲のヒットにより、ソ連に逆輸入の形でリバイバルしたそうだ。そんなロシア人の隠れた心の歌が、カウボーイズの持ち歌だ。

フィンランドとロシアは地図上でももちろん、切っても切れない位置にある。
一般市民の心の中にも、政治的なものとは別に見えない繋がりのようなものがあるのかなと思う。

現在進行形のロシアのウクライナ侵攻を目前に見るカウリスマキ監督は、去年『枯れ葉』という映画を作った。

ソ連崩壊の直前に映画から生まれたレニングラード・カウボーイズは、翌94年には再び同合唱団(70名)と共に、今度はニューヨークへ渡る。同年、壁崩壊後のベルリンでもジョイント・コンサートを開催(動員6万人)。

近くて遠い親戚のような、古い幼馴染みのような、そんな感じなのかもしれないとも思う。古い隣人ロシア人とも手を繋いで、一緒に行こう。哀愁のメロディと古き良きロックの間に、そんな明るい意思も感じ取れるような丁度30年前のライブフィルムだ。



○1993年12月6日

○軍人からなる旧ソ連最大の楽団、いわゆる赤軍合唱団の「アレクサンドロフ・レッド・アーミー・コーラス・アンド・ダンス・アンサンブル/ロシア軍歌と踊りのアンサンブル」総勢170名と、レニングラード・カウボーイズのジョイントコンサート

○観客7万人
○ヘルシンキの野外劇場にて

○収録曲目
Finlandia(J Siberius)
Let's Work Together(Canned Heat)
ボルガの舟唄(ロシア民謡)
Happy Together(The Turtles)
Delilah(Tom Jones)
Knockin' On Heaven's Door 天国の扉(Bob Dylan)
Oh Fields, My Fields ポーリュシカ・ポーレ(レフ・クニッペル)
Kalinka カリンカ(ラリオーノフ)
Gimme All Your Lovin'(ZZ Top)
Jewellery Box /ダンスチームのダンス曲
Sweet Home Alabama (Lynyrd Skynyrd)
Dark Eyes 黒い瞳(ロシア歌謡)
Those Were The Days 悲しき天使(Mary Hopkin、ロシア歌謡)


※2016年12月25日、ロシア国防省Tu-154墜落事故により、「アレクサンドロフ・アンサンブル」の指揮者を含む64人(ソリスト3人を除いた全員)が亡くなったそうです。謹んで哀悼の意を表します。
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