せいか

プラトーンのせいかのネタバレレビュー・内容・結末

プラトーン(1986年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

7/6、NHKBSにて放送されたものを視聴。
先が見えないジャングルの密室で戦地に立たされ、銃を撃ち、刺し、殺し合いをするしかない。窮地にあっては故意がそうでないかに関わらず発狂と共に自分以外は敵となる者も出てきて、混乱が混乱を呼ぶ。この血煙の先に何があって何が求められているのか。

終盤で主人公自身も語るように、兵士は自分と戦うことになるし、それはひたすらここでできるあらゆる地獄の中を巡る主人公の姿を通して最初から見えていたものを改めて説明する言葉でもある。
負傷を負って飛び立つヘリに乗ってこの地獄を離れる彼は、なおもそこに立ったままの兵士たちを眺め、すぐ傍らで穴に投げ込まれ、掃くように転がされる死体の山を見下ろし、生き残った者はこれを現在の社会や後世に伝え、傷を癒やし、生きることに前向きになるための何かを求めなければならないとも語る。
とはいえ、こうして血腥いものとして今もまだ息を感じさせ続けているベトナム戦争は、それを題材とした人間という個人の普遍的な人生の中に重ねられもする印象を受けもする。血と肉と脂でこの世に形を持った人間の生とは何であるのかと思うばかりである。
ただ生を営む獣よりもよほどひどい。生きることに意味と希望の持てる何かがなければならない。ただ生きることができない。呪われた存在だよなと改めて思うばかりの作品だった。
人間の営みは輝くものはたまにあっても、すぐに汚泥にまみれる。それでも生きていかねばならない。やってらんねー。


以下、メモ。

主人公は、大学を中退した人物である。手紙の中では、ろくひ学もなく、貧しく、人生から落ちこぼれ、このままでは町に職もないだろう者たちは、ここでは誰もが無名の存在としてしかし国のために尽くせる兵士になることだとか、社会の底辺である自覚にあっても有能である気になれるだろうことを家族への手紙の中で触れる。だが、自分自身はそう表現する大多数にはほとんど属さない人間でもある。しかもその手紙の中で部隊の人々が映し出されるのだけれども、黒人といわれる人たちもその中に取り込まれる残酷さよ……。
物語終盤近く、除隊で去ることになる人物がそれを喜びながら主人公に「思いつめず、英雄になろうとするな」とアドバイスするのだけれども、それは正しいのだけど、ここにおいては清濁併せ呑まないと生きてはいけない、正義や理性は忘れてそれこそ一個の兵となるしかない息苦しさもある。

大学を中退して学があること、こういう戦争は貧乏人ばかりが割を食らって不平等だ、志願して自分はきたのだということなどをその搾取される弱者自身に語れる主人公はなかなかやばい。(けど、当時はそういうある種の軽い気持ちで来た人も少なくないのだろう。)
夜の見張りで敵兵が近付いてくる中で主人公自身がその対応ができなかったから発生した戦闘の中で自身も負傷して哀れっぽく死ぬのも悪くないと浸るけれど、そのすぐそこで喘鳴しながら息絶える人が居たりとか。
このあとも報告一つで部隊が大打撃を受けたり、誰でもない使い捨ての兵士の判断一つの責任感の重さが描写される(そしてまた同じ戦線に立つ小隊の命令系統の中での縦割り関係の折り合わなさみたいなのもある)。

鬱蒼としたベトナムのジャングルの中に閉じ込められて主人公はすぐに精神を摩耗していく。味方も敵兵も過度の緊張にさらされながらお互いを意識し、銃口に火を吹かせる。基地にあっても閉鎖空間にあって薬物でハイになったりして、閉じ込められて血と汗の籠もる戦地は何のために存在するのか、その渦中に放り込まれている兵たちを見ると至極曖昧でシンプルで人間社会の滑稽みを感じもする。

村を調べるときもまた地獄で、兵士たちは猜疑心の中、戦争に疲弊している貧しい村人たちを蹂躙し、彼らを殺し、村を焼き、虐殺する。それによってようやくオールグリーンになれるのである。
彼らの行いはまさに略奪者である。村人たちが敵(ベトコン)にしか見えず、その人間らしい振る舞いに苛立つ。意志を捻じ曲げて相手を脅迫したり、進んで殺す者もいる。そしてまた敵と同じ言葉を話す女たちを少女であろうと犯そうともする。この狂気に陥っていない兵士たちが宥めるしかない(主人公はここでも揉まれる立場である)が、地獄は変わらない。(言語や民族などの違いなんかがなくても、人間はいくらでも間に線を引いて同じことを繰り返してきたのだが。)

戦闘の混乱を利用して邪魔者たる仲間は排除したりもする。隊の中であっても容易に敵味方の線引はされるのだ。
偽りの報告を受けて死んだと思った人物が、戦線離脱するヘリの中、兵士に追われていままさにそれによって死ぬところを見るとか、主人公はとにかくこの地獄を本編開始直後からひたすら歩き続けている。

戦闘の中で次々と減っていく隊をそれでも押し進めて、無理矢理切れかけの電池を使って動かすように消費していく。

そこにある地獄を脱出してその記憶をそれを招いた社会、安全な社会の中で引きずってる主人公のような人たちも確かにいる反面、自分の居場所の中で地獄が展開しているのだからそういう逃げ場もない人たちもいるんどけど、主人公はただ脱出していく。

人間の気持ちの悪さ。
せいか

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