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プラトーンのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

プラトーン(1986年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

1967年。アメリカ人の青年クリスは、徴兵される若者たちの多くがマイノリティや貧困層であることに憤りを感じ、大学を中退して自らベトナム行きを志願する。しかし、最前線の小隊「プラトーン」に配属された彼を待ち受けていたのは、想像を遥かに超える悲惨な現実だった。

じっくりと見たのは何年ぶりだろう?
配信で見つけて再鑑賞。
オリバー・ストーン監督が自身の従軍体験を基にベトナム戦争の実態を描き、1987年アカデミー賞で作品賞・監督賞など4部門に輝いた戦争映画の傑作。
やはり名作は時を経ても名作である。
ベトナム戦争映画、いや戦争映画は本作以前と以降に別れると言っても過言ではないだろう。

本作は今見ても、従軍した兵士の記憶をあぶり出すかのようなリアリティと生々しい心の傷を見る者に伝える。
本作の傑作たる所以は、監督自身の経験から来る細かな描写の説得力のおかげだ。

行軍の辛さを知らず、備えあれば憂いなしと、荷物を多く持参したために早々に疲れ果てる新兵。
アリが首にたかり、足下を大蛇が這い、顔にはヒルが貼り付く、危険で不快なジャングル。
そこは経験と生存本能が物をいう世界だ。
基地に戻れば、役に立つかどうかも分からぬ塹壕掘りに、糞尿と仲間の死体処理。
皆、自分のことで精一杯で誰も生き残る術を教えてはくれない。
たった一週間で嫌気がさす、主人公クリス役チャーリー・シーンの独白は父親マーティン・シーン主演の名作「地獄の黙示録」を否が応でも思い起こさせる。

兵士はまともな職につけない貧しい家庭の若者ばかり。
中流家庭のお坊ちゃんが、家族の敷いたレールに反抗して、高潔なボランティア気取りで入隊して酷い目に遭う。
本来なら「戦場を舐めるな」と冷笑する所なのだが、主人公の視点は今幸せな生活をしている私たちと重なる。
「もし、私たちが戦争に放り出されたら、どうなるのか?」を疑似体験させてくれるのだ。

敵かもしれない、仲間かもしれないと平和な村を蹂躙する兵士。
疑わしいだけなのに、敵への憎悪だけで兵士でもないベトナム人を殺す無駄な殺生は見るに耐えない。
敵の補給地点だと疑われて焼かれる農村。
生活の場を失う農民たち。
彼らはこの後、どう暮らせばよいのか?
追い打ちをかけるように村の少女をレイプしようとする兵士たち。
主人公ならずともモラルが揺らぐ。

理想を掲げて志願したクリスですら民間人の足元に銃弾を放ってしまう。
たまに酒や麻薬で全てを忘れ、感覚を麻痺させねば、とてもやって行けそうにないというのも分からないではない。
小隊内での衝突、戦場を逃げ出す兵士の姿など、美化されていない現実の戦争が描写されているのだ。

誰であろうと敵なのだと、大義の元に女子どもでも殺そうとするバーンズと、戦場であろうと人としてのモラルを守ろうと殺戮を止めようとするエリアスの対立は、心の中の「善と悪」を見る思いだ。

対立の果てに、エリアスはバーンズに撃たれてしまう。
しかしエリアスは生きており、ベトナム軍に追われながらもヘリに向かって走る。
エリアスを視認したヘリは援護射撃を行うが、エリアスは空に腕を伸ばした後、倒れてしまう。
エリアスの最期は、悲壮なBGMも相まって非常に衝撃的だ。
味方のはずだったバーンズに撃たれて地上に取り残された彼は、最期に何を思ったのだろうか?
私には、神に向かって理不尽を問う姿に見えてならない。

クライマックスは大量のベトナム軍による真夜中の夜襲。
激戦の中、次々と戦死していく兵士達。
指揮官は半ばヤケ糞で、味方もろとも犠牲になる覚悟で、爆撃機に陣地に爆弾をバラまくよう命令。
敵も味方も分からない状況でクリスがバーンズに殺されかけようとした瞬間、爆撃機から落とされた爆弾が炸裂。

気を失ったクリスが翌朝、目を覚ますと周囲は戦死した敵と味方の遺体で溢れかえる地獄絵図。
虚ろな足取りで歩きだしたクリスの目の前に満身創痍のバーンズが居た。
「殺せ」と言い放ったバーンズはクリスに撃たれて絶命する。

エリアスを罠に嵌めた復讐か?
自分を殺そうとした人間から身を守るためか?
これ以上、味方にエリアスのような犠牲者を出さないためか?
それともモラルが崩壊したのか?
味方を貫くクリスの銃弾の意味は重い。

ラスト、主人公クリスは負傷のため、前線ではなく後方支援に送られるのだが、ハッピーエンドだとは感じられない。
クリスの乗るヘリを見送る兵士らと再び生きて会えるのか?
奪われた彼らの青春と戦争の無益さが虚しい。

血生臭く、時には目を背けたくなるほどの描写の連続だが、黒人兵キングが運良く五体満足で帰還するという救いもある。
他愛ない世間話の際に口から出た彼の言葉は、帰還兵のこれからの生活を想像させる。
「貧乏人が金持ちにひどい目に遭わされることくらいみんな知ってる。ずっとそうだったし、これからもそうだ」
現代を生きる私たちの胸にも響く格差社会への批判だが、そんな社会でも戦争という地獄よりは何万倍もマシなのだと救いに見えてしまう。

名作は鑑賞するごとに違った輝きを放つものだ。
初めて見た時は、「ベトナムで米軍は非道いことをしているのに関わらず、若き米兵の死を美化して描いている都合の良い映画だ」などと思ったものだが、年月を経た今は違う。

米軍の蛮行は、戦争に突入した(他国の戦争に介入する)アメリカの政治こそ悪なのだと描いていることがハッキリと分かる。
ベトナム戦争以降も、過去に学ぶことなく、何度も人類は泥沼の戦争の歴史を繰り返している。
そして、いつの世も政治の犠牲になるのは、名もなき若き兵士と罪の無い民間人なのだ。
そんな監督のメッセージを鮮烈にフィルムに刻み込んだ作品である。
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